第1回シンギュラリティ生物学国際トレーニングコースに行ってきました

第1回シンギュラリティ生物学国際トレーニングコースという楽しいイベントに行ってきましたので、忘れないようにまとめときます!

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いやいや、シンギュラリティ生物学って何よ!?って人はこちらもどうぞ。

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この記事で伝えたいこと。

  1. シンギュラリティ生物学のトレーニングコースおもろいよ!講義だけじゃなくて、実験もできるし、お酒飲みながらガッツリ研究トークできるよ!(来年も開催されるらしいので是非!)

  2. 突き抜けたサイエンスのきっかけになる問いを立てるために、「幅広くて深い知識」「研究にトキメキ続ける心」「お酒の力を借りつつ問いを立てまくるブレスト」が大きな力を発揮します!

 

<目次>

 

1日目にやったこと

イントロ:シンギュラリティ生物学とは何か?
平均から外れたマイノリティの細胞が「ある転換点:シンギュラリティ」を起こして生命システムを制御する、という視点で行う研究

生命現象を検出するプローブについて
蛍光,発光,FRETの組合せ、開発のためのスクリーニング法など

ウェルカムジンパ!(ジンギスカンパーティー
印象に残ったお話

  • 永井先生「サイエンスにはアルコールが必要」
    参考記事は以下www.osaka-u.ac.jp確かに僕も立食形式のパーティーには(特に英語だと)まだ慣れなくて緊張してしまうので、アルコールでブーストかける手法は良く取り入れる

  • 蛍光プローブ venusについて
    これよりも良いプローブが後に開発されたらしいが、ほとんどの多くの人はvenusを使い続けてる
    名前が印象的だから。
    何か新しいものを開発したときは、魅力的な名前をつけましょう!とのこと。

 

2日目にやったこと

発光プローブの基礎から応用まで
励起光が要らないことによる高いS/N比や光褪色が無いことによる長時間の可視化はシンギュラリティ現象を追うのに特に重要

「木を見て森も見る」トランススケールイメージング
社会性アメーバの自己組織化現象が起こる際の、様々なシンギュラリティ現象(臨界点)を可視化
シンギュラリティ現象は単なる連続的な反応の一部として見落とされがちで、大抵私達は生物学的な現象が起きた後の状態に注目する。その方が一定の安定した再現性が良く取れる結果が得られるため。しかし、本当にその生物学的な現象を明らかにしたいのなら、その現象が始まる時点(Starting point)から、大きな変化が起きる瞬間(Singularity point)までを可視化する必要がある。

FASTシステムによるWhole brainイメージング
原理はとても簡単で、
「脳を直立させたサンプルを準備」してから、、、

「共焦点でZ stackとる」

「薄くスライスして表面を削る」

「ステージを上げて焦点を合わせる」

「共焦点でZ stackとる」
以降繰り返し(自動で画像取得)

ここから色々がんばって、脳全体の3Dのイメージを1神経細胞レベルの解像度で再構築することができる
→プローブを使って神経を光らせると、脳全体の神経を可視化できるので、どの神経がどの脳領域に投射してるのか分かる
→コントロール VS 疾患モデルマウスの比較により、どの脳領域においてactiveな神経(Arc-dVenus)が減っているのか?を決定するスクリーニングに応用できる

 

ブレインストーミング その1:酒を飲んで常識の殻を破り、オモロイ議論を加速させよう

ブレインストーミング=飲み会! by 永井先生
お酒がデザイン思考や議論を加速する。これは単に永井先生の哲学とか酒好きを反映しているだけではなく、ちゃんとロジックがあると思った。ブレストはアイデアの質よりも量が大事だけど、特に僕の場合は完璧に近いアイデアや、叩かれにくい抽象的な問いを設定しがちだと反省した。それでは突き抜けたサイエンスはできない。常識を意識しない発言を加速するためにアルコール大事だと思った!まだまだアルコールが足りない!

沢山の問いを建てるには「幅広く」「深い」知識が必要(要は論文を「沢山&しっかり深く」読もうっていう話)

正直言って、本当に今まで上から降ってくる問いを解くことばかり考えていたなーと思った。後はどれだけの普段の知識のinputが、outputできる状態になっていなかったか(結構忘れてしまっていたということ)が綺麗に可視化された。

これはOISTコミュニティに持って帰って定期的に実施してみたい!

また、どうやって「適切な問いを見出すのか」というこの過程は、あるお題があるときに、特に効果抜群。
→例えば、grantの応募では、あるお題や特定の国家戦略に沿った計画を練らないといけない。それをテーマにしてブレインストーミングをすることで、切れ味の鋭い応募書類が書けるようになるだろうということ。

 

3日目にやったこと

全反射照明蛍光顕微鏡による一分子イメージングの自動化 (AiSIS)
まずはマニュアルで様々なmutantを用いてEGFRの一分子解析

次に自動化された顕微鏡を体験。顕微鏡のデータ取得プロセスの内、フォーカス調整・細胞の認識・薬剤添加のパートが自動化されていた。(サンプル調整も今後まほろ等で自動化したいとのこと)

AiSISのカッコイ動画がYoutubeにあがっております。

細胞内1分子自動観察システム「AiSIS」 - YouTubeこちらから。

 

4日目にやったこと

1分子イメージングの基礎から神経科学研究への応用まで

細胞が初めて外部の情報を受容する「細胞膜」の「レセプター」に注目し、1分子レベルで可視化すると、平均化されていたせいで今まで見落とされていた現象に気づけたり、分子のダイナミックな振る舞い・分子同士の相互作用などを可視化できたりする。これを応用して、様々な生物現象の説明をしようという技術。

例えば神経に発現するGABAA受容体(GABAは神経活動を抑制する神経伝達物質)に注目する。過剰に神経が興奮している条件において、GABAA受容体の動きが著しく増加していることが分かった。なんと一方で、細胞膜上に存在する受容体の量は変わっていなかった。つまり、GABAA受容体が細胞内に取り込まれたり壊されたりするのではなく、細胞膜上でGABAA受容体の動きが増してシナプスの領域から出て行きやすくなるため、結果的にシナプスに存在する受容体の数が減りGABAのシナプス伝達が弱くなることがわかった*1。GABA作動性シナプスの異常(GABAのシナプス伝達が弱くなること)で神経興奮が過剰になっているてんかん患者さんの脳でも、実際にこのような異常が起こっていると予想される。(2009年のNeuronで表紙を飾った研究。理研のプレスリリースはこちら

抑制性神経伝達を制御する新たな分子機構を、量子ドットを活用し発見 | 理化学研究所

また別の話題で、アルツハイマー病においては、わずか数個のタウ変性から始まって、健康な脳の大脳皮質の50%の神経が脱落し、脳が萎縮してしまうことが知られている。これってどうやって進行してるの?一番最初の生物学的な転換点があるはずで、そこで起きていることは何なんでしょう?という問いかけが非常に印象的だった。

ちなみに、講師の坂内先生のHPはこちら

hamhamqdspt.mystrikingly.com

(研究のお話や研究室紹介のスライドへのリンクがあったり、市民講座のビデオなどが埋め込まれていてすごく楽しいです。このブログの記事を書くのにも参考にさせていただきました。院生・ポスドク募集中みたいです!!)

 

がん免疫におけるシンギュラリティ現象

本庶先生ラボOBの現徳島大岡崎先生による、本庶先生ラボ時代のPD-1研究のあらましと最新の研究動向

single-cell mass cytometry技術(CyTOF)を用いて、新たな免疫細胞のカテゴリーを定義

腫瘍の排除やがん転移などのシンギュラリティ現象を担うごく少数のT細胞、がん細胞、ストローマ細胞を同定し解析(しているみたいでしたがよく分かりませんでした。免疫難しい。。。)

参考URLはこちら→Okazaki Lab

 

AiSISの解析パート

EGFRの一分子イメージングの結果をトラックして、MSD (Mean Square Displacement) を算出し、データの解釈について議論した。AiSISのデータ解析もやってみたかったけど、今回は機材トラブルもあって時間切れ!残念…!

 

ブレインストーミング その2:研究とトキメキ!

研究にときめいてる?もっと研究にときめくには?そのトキメキを持続させるには?by坂内先生

World café style という形式でブレスト

ワールドカフェ - Wikipedia

ぬいぐるみを持った人が発言すると決めておくことで、人の話を遮らずに聞けるようにするというアイディアが結構効いていたと思う。「自分がしゃべりたい」って人が多いときにめっちゃ有効。

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ぬいぐるみかわいい

お題は”sparks joy!”(コンマリ先生風)
→あなたが ”sparks joy!” すること(ときめくこと)は何?

「好きこそ物の上手なれ」はサイエンスやるのにも大事で、色々な問いを立てながら自分の心のときめきを振り返った。

本当に今の研究にときめいてる?

今やってる研究以外ではどんなことにときめく?

科学者としての生活をもっとときめきに溢れた日々にするにはどうしたら?

そのときめきを継続させるには?

色んなアイデアが沢山飛び交う良い会だった!やっぱり何を言っても否定されないブレストの形式は多様な人達の人生に対する価値観に触れられて良いなと思った。

 

→トキメキを継続させるにはどうしたらいいんだろうというセッションは印象的だった。

  • 継続にはワークライフバランスが大切って意見もあれば、日常生活とサイエンスを切り離さずに、自身の研究について考え続けることが大事って言う人も。

  • ちゃんとタスクに優先順位をつけて、世界で自分しかできないことは何?って考え続けること。ユニークな研究をしてるって感覚を持つことが自分の研究にトキメキ続けるためには重要。

  • 色んな人とコラボしていく姿勢が大事。切磋琢磨したり励ましあったりしよう。競争して勝つことばっかり考えるんじゃなくて、協力し合って何かを作る。時にはネガティブフィードバックを受けることだってめちゃくちゃ大切。

  • どうしても1人で何かをやり通さないといけないこともある。そんなときは自分のロールモデルとなるような人を見つけて、憧れの気持ちやカッコイイ!こんな風になりたい!っていう気持ちを呼び覚まして、モチベを保つ。

*2

 

5日目にやったこと

MATLABを使ってコードを書いてみよう

MATLABの基本的な演算からスタート

受精卵がダイナミックに卵割する立体ライブイメージングの4D動画 (3D立体プラス時間で4D) を標本にして、核を自動で認識させてトラッキングしてくれるコードを書いてみる

お手本を見ながらやるんだけど、シンタックスに馴染みがなさすぎて、とっても大変だった

 

ブレインストーミング その3:クレイジーでユニークな研究の大切さとか色々

さあ、クレイジーな研究をしよう!by 大浪先生

クレイジーな発想を持ち続ける (Stay Pappara-Pa) ための練習として、「25年後の未来で、サイエンスやテクノロジーがどのように私達の生活を幸せにしているのだろうか」というお題で議論。

今回はbrain writing 形式

ブレイン・ライティング・シートの使い方 - アイデアプラント オンラインショップ

これも人の話を遮ってしまうことの防止に有効なやり方でした。あと、日本人は英語の会議になると急にひっこみ事案になってしまうので、しっかりと議論をふくらませるのに効果的

AIが色々介入して自動化するんじゃない?とか、パーソナライズされた薬がどんどん出てくるよとか、半分人間で半分ロボットが出てくるよとか、アイデアは色々

 

→ブレストが終わった後に、大浪先生とお話させていただいた。以下は受けたアドバイスの中で印象に残ったもの。

  • 英語を上手に話さないといけないっていう呪いに囚われすぎずに、もっと積極的に。英語がnativeのアメリカ人とイギリス人同士でも、アメリカ英語とイギリス英語の違いから、聞き取れないことは結構あるらしい。というか、そもそも日本人同士でだって、お互いが言ってることの100%理解できてへんで?っていうこと。

  • 英語の環境も大事だけど、しっかり母国語でサイエンスできるのもやっぱり大事だし、アドバンテージになる。英語鍛えることに注力しすぎるんじゃんくて、日本語での論理の展開とか伝え方とかを鍛えることも意識すべき。

  • 結局設備とかお金じゃなくて、研究は頭でやるんだよ。OISTは今潤ってるけど、そこんところ意識してないと全然結果がでなくて大変になるから気をつけましょう。

  • Ph.D.の研究は0から1を生み出すような、ユニークなことをやるのが良いよ。それで失敗しまくって、何とかして生きていく力を身に着けていくのが博士課程ってもんですよ。

→ここで少し、ユニークな研究について。

コスパばかり考えたり、論文数ばかりにこだわったり、成果主義で流行りの研究ばかりしていても、複雑な物事の本質はわからない。

仕事が早いことが能力が高いということではなくて、仕事のおもしろさが大事。そのおもしろさとは、「時の話題になっている研究というよりは、わかる人にはわかるというたぐいの、粋なもの(https://www.natureasia.com/pdf/common/mentor/ndigest.2010.100110.pdf

の記事を参考に改変)

 

そんなことを考えていたときに、ふと思い出したこと。

「ユニークユニークって言うけどさー、そんなにユニークなことやったら、誰も興味持ってもらえなくて、論文はリジェクトされて、グラントも取れない未来しか見えないよ!僕まだ死にたくないよー!」

これに対しては2人の先生からの意見が参考になる*3

  1. 坂内先生
    そういう状況になってしまうときには、何でこれが面白くなくて、どこが甘いのかっていうことをエキスパートに聞いて、フィードバックをもらってみるのが良い。大概の原因は、研究が「ユニークすぎる」せいではなくて、「深く考えれていない」「ツメが甘い」等であるので、もう一度練り直してみよう。
  2. 大浪先生
    自分の研究に時代が追いついてないってことはよくある。最新の研究がおじいちゃんレビュアーたちに分かるわけがない。リジェクトされても、グラント取れなくても諦めない。査読者が合わなかったんだって思うことにする*4
    しかし、ほんとに「ユニークすぎるから」リジェクトされてしまうのか、実は「的外れな問いを立ててるから」リジェクトされてしまうのか、を見極める必要はある。大浪先生が学生時代のPIに言われた基準は、分子生物学会などの超デカイ学会で発表してみて、ほんとうに誰も寄り付かなかったらヤバい。もし数人でも興味を持ってくれて、自分の研究のファンになってくれるような人がいたらやってみる価値アリだと。なるほど面白いなーと思った。

 

Closing Remark:まとめ

参加者は既にシンギュラリティ生物学プロジェクトのメンバーの一員

このトレーニングコースをきっかけに、コースをオーガナイズしてくれた色んなPIの先生方とコラボしましょう(あのすごい顕微鏡が使いたい!とかだけでも全然OK)

そして、各々が所属のラボに帰ったときには、”シンギュラリティ細胞”として、クレイジーな発想を持ち続けて、新しいサイエンスを開拓していく研究者になって欲しい。

  

色んな哲学を持った先生と話せて、色んな研究にも触れられて、改めて研究の楽しさを感じられる良い経験になりました。

来年も開催されるらしいので、興味を持たれた方は是非いってみて下さい!

 

余談:シンギュラリティ生物学トレーニングコースに来ていた受講者たち
日本からの受講者もそれなりにいましたが、海外からわざわざ来ている人も多く、色んな国の人と仲良くなれました。

とても個人的でシンギュラリティ関係ないんですが、なんと来年OISTに受験するかもという受講生の方がいました。このブログのOIST記事 (OISTの倍率って実際どのくらい?コネなし地方大の学部生がOIST大学院合格するには? - 海を渡りたい柑橘系大学生。) も読まれたことがあったみたいで、一学生として、OISTの日本人学生増やすことに貢献できてる感じがしたのも嬉しかったです。

 

ということでまとめるとこんな感じ

  • シンギュラリティ生物学のトレーニングコースおもろいよ!講義だけじゃなくて、実験もできるし、お酒飲みながらガッツリ研究トークできるよ!(来年も開催されるらしいので是非!)

  • 突き抜けたサイエンスのきっかけになる問いを立てるために、「幅広くて深い知識」「研究にトキメキ続ける心」「お酒の力を借りつつ問いを立てまくるブレスト」が大きな力を発揮します!

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<目次を再掲:↓から各項目に戻れるよ>

*1:つまり、発現量を比較するようなオミクス解析だけでは説明できない生物現象があるということ。だから一分子でイメージングする必要がある

*2:→個人的に思い出したのは、現OIST教授の楠見先生(当時は京大)のブログの記事で見かけた記事(今アクセスしようとしてもサーバー落ちてるぽくて見れない…)。研究を好きになることは良いこと。ただ、それを継続したいと思うのなら、「好きになる努力」をしませんか?という意見だった(上で書いた「そのときめきを継続させるには?」という問いの言い換え)。「いや、努力してる時点でもう好きちゃうやーん!」って初めは思ったんだけど、よく考えるとこれは結構面白い表現だと感じている。つまり、あなたが思う「研究が好き」っていうのは、「研究活動の全てが好き」っていう意味ではないと思うんです。やりたいことの半分も上手くいかなくて、膨大な時間とエネルギーがかかる割には社会からの視線は冷たい、、、(最近大学院は入院するところっていうツイートがちょっとバズってたような気もしますね)なんていう側面もあるじゃないですか?それでも、辛いことがいっぱいある中でも、研究のある側面が好きで続けたいって思うのであれば、その気持ちが継続できるように努力をしましょうよ。つまり、「好きになる努力」をすることで、くじけそうになっても、諦めずに立ち上がっていけるパワーが蓄えられるよねっていう意味に解釈しました(参照元にアクセスできないのでうろ覚えですいません)。「好きになる努力」をするってどうやるの?その答えは上で書いた通りに人それぞれだと思いますが、楠見先生はPIとして、研究が好きという気持ちを燃やし続けられるようにラボ運営をしたり、学生やポスドクの人とディスカッションしているらしいです。

*3:そういえばブレストその2のときに坂内先生に同じ質問をしている方がいたので掲載してます

*4:むかし大浪先生が初めて査読者側の立場になったころ、大浪先生自身は大御所の先生と同じスコアをつけることを目指していたそうな。しかしそこで、偉い人と同じ評価をできる人が優れたレビュアーなのか?だったらおれが査読しなくても偉い人だけで査読したら良くないか?ということに気づき、そこから自分が面白いと思った研究を評価するようにしたという