KClによる刺激で神経のERが断片化 (Journal of neuroscience research 2011年5月2日号掲載論文)

結論から言うと、脳海馬スライスの神経では、KCl刺激によるCa2+流入よって、ERが断片化することを示した論文。

 

本日は「Potassium-induced structural changes of the endoplasmic reticulum in pyramidal neurons in murine organotypic hippocampal slices. (マウス海馬のスライスにおける錐体ニューロン内ERのKCl刺激による構造変化。)」という論文で、スウェーデン Laboratory for Experimental Brain Research, Department of Clinical Sciences Lund, Lund University の Håkan Toresson のグループ(どういったラボ?→*1)による研究。(論文サイトへのlink→*2

  

 ちょっと構造に分けて説明していきます。

背景       ERの構造は、細胞内における同化、ストレス応答、シグナル伝達等の調節に重要な役割を果たしている。ERは一般的に連続的な構造をしているが、一時的に構造変化を起こして断片化した状態になることがある。

課題       ERの断片化の発生機序、生物学的意義に関しては詳しく分かっていない。

方法       ERを標的とした蛍光タンパク質を発現させた脳の海馬スライスに対して、過度に神経脱分極を誘導するレベルのKCl刺激(50mM)を加えることで、ERの断片化を誘導し、断片化の機構を調査した。

結果①   KCl刺激はERの断片化を誘導する。K+が基底濃度(2.5mM)に戻るとERは融合して元の構造に戻る。この融合・分裂の過程は何度も繰り返し誘導することができる。

結果②   Ca2+取り込みチャネルであるNMDA-Rの阻害や細胞外Ca2+の除去でERの断片化はキャンセルされる。

結果③   ERの断片化は35℃よりも30℃で顕著である。

結論       脳海馬スライスの神経では、KCl刺激によるCa2+流入よって、ERが断片化する。

意見       今回のKCl刺激は生理学的な神経の脱分極と比べるとかなり強いため、通常の神経の脱分極ではどの程度ERが断片化するのか疑問である。Ca2+取り込み/放出チャネルを始めとしたER局在タンパク質はもともと均一に分布している訳ではないが、Ca2+に依存したERの断片化はさらなるタンパク質の局所化を引き起こすことになるだろう。どのような分子が、どのようにして可逆的なERの融合と分裂を担うのか、今後の研究で明らかになると面白いと思う。