ER-mito間のMCSと、Caイオン動態 (Molecular Cell 2010年7月9日号掲載論文)

結論から言うと、ミトコンドリアとERまたはPMとの接触点のイメージング、及びそこにおけるCa動態をモニターした論文。

 

本日は「Imaging Interorganelle Contacts and Local Calcium Dynamics at the ER-Mitochondrial Interface (ER-ミトコンドリア間でのオルガネラ膜接触点と局所カルシウム動態のイメージング)」という論文で、米国 Department of Pathology, Anatomy and Cell Biology, Thomas Jefferson University の Dr. György Hajnóczky のグループによる研究。(論文サイトへのlink→*1

 この論文が出たのは2010年で、それまでERとミトコンドリアの膜接触点:membrane contact site (MCS) に対する特異的なプローブは、蛍光タンパク質にER標的配列とミトコン外膜標的配列をつなげたものが開発されていました。しかしこの手法では、もともとMCSを形成していないような少し離れたミトコンドリアとERも、プローブによって近接してしまうという欠点がありました。そこでこの論文では、プローブを入れる前に既に存在するMCSも可視化する目的で、ラパマイシンでヘテロダイマー化するFKBP-FRBの系を改変して用いました (下図参照)。ラパマシンを入れた瞬間から経時的に観察することで、「既に存在していたMCS」から「ある程度近接していたミトコンドリアとERも近接していく様子」をモニターできるという訳です。もっと最近の論文ではsplitGFPを用いたり、duolinkPLAを用いたりして、近接している点のみを光らせる系もあったと思います。また機会があれば紹介します。

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論文から引用。

 

ほぼ全てのミトコンドリアがERとMCSを形成している一方で、ミトコンドリアと細胞膜との直接的な接触はあまり見られないようです。それはミトコンドリアとPMの間にはERがあるからです。

 

ミトコンドリアに特異的なCaイオンプローブと、cytosolicなCaイオンプローブを併用することで、Caダイナミクス定量しています。細胞にIP3を入れてERからのCaイオン放出を誘導したところ、サイトゾルのCa濃度が上昇してから数百ミリ秒遅れて、ミトコンドリアのCa濃度が上昇しています。要するに、ERから出たCaはcytosolを通って、近くのミトコンドリアに入るということです(これは結構当たり前にも聞こえますが、ERから出たCaが「こんなに直ぐにミトコンドリアに入る」というのは当時意外だったのかもしれません)。IP3を入れただけの系なので、受け取り手のミトコンドリアには特に何の刺激もなくとも、局所的にCa濃度が上昇すればミトコンドリアにCaが入っていくと考えられます(もしかすると、ER上のIP3Rには、ミトコンドリアのCa取り込みチャネルを活性化させる役割もあるのかもしれませんが)。

また、5μm以内の距離にある2つのミトコンドリアを比べても、Ca濃度の上がり方にはばらつきがあります。Ca取り込み側の問題なのか、ERとのMCSの多い少ないが問題なのか、結局詳しく何が起きているのかは分かりませんが、Caイメージングをする時は細胞全体でひとまとめに何かを議論するのではなくて、局所的なCa動態に気を配ることが大事なのかなと思いました。

 

興味を持たれた方はabstractもどうぞ。

The ER-mitochondrial junction provides a local calcium signaling domain that is critical for both matching energy production with demand and the control of apoptosis. Here, we visualize ER-mitochondrial contact sites and monitor the localized [Ca2+] changes ([Ca2+]ER-mt) using drug-inducible fluorescent interorganelle linkers. We show that all mitochondria have contacts with the ER, but plasma membrane (PM)-mitochondrial contacts are less frequent because of interleaving ER stacks in both RBL-2H3 and H9c2 cells. Single mitochondria display discrete patches of ER contacts and show heterogeneity in the ER-mitochondrial Ca2+ transfer. Pericam-tagged linkers revealed IP3-induced [Ca2+]ER-mt signals that exceeded 9 μM and endured buffering bulk cytoplasmic [Ca2+] increases. Altering linker length to modify the space available for the Ca2+ transfer machinery had a biphasic effect on [Ca2+]ER-mt signals. These studies provide direct evidence for the existence of high-Ca2+ microdomains between the ER and mitochondria and suggest an optimal gap width for efficient Ca2+ transfer.

(私訳と勝手な注釈) 

ER-ミトコンドリアMCSは、エネルギー生産と需要のマッチングおよびアポトーシスの制御の両方に重要な局所的なカルシウムシグナル伝達ドメインの場になっています。ここでは、ERミトコンドリアの膜接触部位を視覚化し、ラパマイシン誘導性蛍光オルガネラリンカーを使用してローカライズされた[Ca2 +]変化([Ca2 +] ER-mt)を監視します。RBL-2H3とH9c2の両方の細胞において、すべてのミトコンドリアがERと接触している一方で、細胞膜(PM)とミトコンドリア接触は、ERが間に挟まっているためあまり観察されませんでした。単一のミトコンドリアをイメージングすることにより、ERとのMCSが示され、ERミトコンドリアのCa2 +移動が不均一であることがわかりました。Pericamタグ付きリンカーによるイメージングにより、IP3誘発による9μMを超える ER-mt間Ca2+シグナルが明らかとなり、バルク細胞質[Ca2 +]の増加が何とか緩衝されました(バルクなCa濃度と、局所的なMCSでのCa濃度変化を切り分けるのに、EGTAを入れたりと結構苦労したみたいです。詳しく読んだらまた追記します)。リンカーの長さを変更してCa2 +伝達機構に利用できるスペースを変更すると、ER-mt間Ca2+シグナルに二相性の影響がありました(IP3RはERから10nmほど突き出ているらしく、リンカーで近づけすぎるのも良くないのでは?ということが言われていました)。この論文は、小胞体とミトコンドリアの間に高Ca 2+マイクロドメインが存在することの直接的な証拠を提供し、効率的なCa 2+伝達のためには最適なギャップ幅が大切であることを示唆しました。