結論から言うと、アポトーシスの直前、小胞体のCa2+量枯渇に依存してカルレティキュリンという小胞体タンパク質が細胞膜表面にさらされることを示した論文。
本日は「Reduction of endoplasmic reticulum Ca2+ levels favors plasma membrane surface exposure of calreticulin (小胞体Ca2+レベルの低下はカルレティキュリンの膜表面露出を促進する)」という論文で、フランス Centre de Recherche des Cordeliers の Dr. G Kroemer のグループ(どういったラボ?→*1)による研究。(論文サイトへのlink→*2)
構造に分けて解説。
背景 化学物質の投与でがん細胞にアポトーシスを誘導することはがん治療に有益。これまでにアントラサイクリンが細胞死を誘導することが知られていた。
課題 アントラサイクリンによるアポトーシスの前に、カルレティキュリン(CRT)というタンパク質が細胞膜表面に曝されることが知られていたが、その意義に関しては不明である。
目的 CRTの細胞膜へのexposureとCa2+ホメオスタシスの関係を調査する。
方法 神経芽腫細胞株(SH-SY5Y)において、SERCAの阻害やReticulon1Cの過剰発現によりER内腔Ca2+濃度を低下させ、アントラサイクリン投与の影響を見る。
結果① SH-SY5Yは、アントラサイクリン投与でもCRT exposureが誘導されないが、Reticulon1Cの過剰発現と組み合わせるとCRT exposureが起きる。
結果② brefeldin Aにより小胞体からゴルジ複合体へのタンパク質輸送阻害を行うと、CRT exposureがキャンセルされる。
結果③ Reticulon1Cの過剰発現によりER内腔Ca2+濃度が低下している。
結果④ 細胞内(および小胞体)Ca2+のキレート、IP3受容体のリガンド結合部位の発現、およびSERCAポンプの阻害は、SH-SY5YおよびHeLa細胞において、小胞体Ca2+濃度を減少させ、細胞表面でのアポトーシス前CRT曝露を促進した。
解釈 アポトーシス前のCRT曝露は、ERのCa2+枯渇によって誘導される。
最近出た論文では、細胞膜表面のCRTをマクロファージが死細胞の目印として認識しているという報告がある(このブログで以前取り上げました↓)
アポトーシスの前にCRTを出すのは、恐らくアポトーシスの後だと細胞が死んでいるのでCRTを出せないのだろう。しかし、ERのカルシウム量を感知してCRTを提示するという仕組みだと、アポトーシスしていない細胞でもERのカルシウムが枯渇するとCRTを提示してしまうので、他にも制御する仕組みがありそう。
*1:このグループは内的および外的ストレスに対する細胞の応答を、細胞死などの観点から研究しているラボのようです。http://www.kroemerlab.com/index.php/science/researchより。