樹状突起はいかにして正しくはりめぐらされるのか? (Journal of Neuroscience 2010年7月21日号掲載論文)

結論から言うと、「樹状突起がいかにしてはりめぐらされるか?」に関する分子メカニズムに、Rpd3とProという遺伝子が関与していることを提案した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、2010年7月21日号のJournal of Neuroscienceに掲載の「Histone deacetylase Rpd3 regulates olfactory projection neuron dendrite targeting via the transcription factor Prospero. (ヒストンデアセチラーゼRpd3は、転写因子Prosperoを介して嗅覚投射神経の樹状突起形成を調節する。)」という論文で、先週から引き続き、米国 Stanford University の Dr. Liqun Luoの仕事である。*1

 

Abstract

Compared to the mechanisms of axon guidance, relatively little is known about the transcriptional control of dendrite guidance. The Drosophila olfactory system with its stereotyped organization provides an excellent model to study the transcriptional control of dendrite wiring specificity. Each projection neuron (PN) targets its dendrites to a specific glomerulus in the antennal lobe and its axon stereotypically to higher brain centers. Using a forward genetic screen, we identified a mutation in Rpd3 that disrupts PN targeting specificity. Rpd3 encodes a class I histone deacetylase (HDAC) homologous to mammalian HDAC1 and HDAC2. Rpd3(-/-) PN dendrites that normally target to a dorsolateral glomerulus mistarget to medial glomeruli in the antennal lobe, and axons exhibit a severe overbranching phenotype. These phenotypes can be rescued by postmitotic expression of Rpd3 but not HDAC3, the only other class I HDAC in Drosophila. Furthermore, disruption of the atypical homeodomain transcription factor Prospero (Pros) yields similar phenotypes, which can be rescued by Pros expression in postmitotic neurons. Strikingly, overexpression of Pros can suppress Rpd3(-/-) phenotypes. Our study suggests a specific function for the general chromatin remodeling factor Rpd3 in regulating dendrite targeting in neurons, largely through the postmitotic action of the Pros transcription factor.

 

私訳と勝手な注釈。軸索誘導の機構と比較して、樹状突起誘導の転写制御に関してはほとんど知られていない。古くから研究が進んでいるショウジョウバエの嗅覚系は、「樹状突起がいかにしてはりめぐらされるか?」という機構において特異的な転写制御を研究するための優れたモデルをである。投射神経(PN)[*投射神経とは、軸索をその神経が属している神経集団(例えば神経核など)に限定する介在神経とは異なり、異なる領域間の情報伝達を担う神経のこと]はそれぞれ、その樹状突起を触角葉[*ショウジョウバエの触覚:antennaの機能を司る能の部位]内の特定の糸球体[*腎臓にある糸球体のことではなく、同じ種類の嗅覚受容体を発現する神経が集まっている場所のこと]に投射し、その軸索を脳のより中心に投射する。順遺伝学的なスクリーニングにより、著者らはPNの投射特異性が崩壊してしまう因子として、Rpd3の突然変異を同定した。 Rpd3は、哺乳動物のHDAC1およびHDAC2に相同なクラスIヒストンデアセチラーゼ(HDAC)をコードする。 Rpd3(-/-)PNの樹状突起は、通常は触覚葉の背側の糸球体に投射するはずだが、内側の糸球体に誤って投射してしまい、軸索は重度の過分枝表現型を示す。これらの表現型は、Rpd3の有糸分裂後の発現によってレスキューすることができるが、ショウジョウバエに存在する唯一の他のクラスI HDACであるHDAC3ではレスキューされない。さらに、非定型[*普通ではない]ホメオドメイン転写因子Prospero(Pros)を破壊すると、同様の表現型が得られ、これは分裂終了後のニューロンにおけるPros発現によってレスキューすることができる。驚くべきことに、Proの過剰発現はRpd3(-/-)表現型をも抑制することができる。これらの結果は、主にPros転写因子の分裂終了後の作用を通して、ジェネラルなクロマチンモデリング因子であるRpd3の、樹状突起投射調節における特定の機能を示唆している。

 

 

この2つの遺伝子に、どういう相互作用があるのかな?と少し読んでみたが、

仮説1. Rpd3落としたときにProの発現変わる?By 免疫染色→No

仮説2. Rpd3Proが直接結合して、Pro下流の標的遺伝子発現を変化させてる?By co-IP→No

仮説3. Rpd3が直接Proを脱アセチル化して、その機能を変化させてる?By HDAC阻害剤添加後、免染 or mass→No

ということで、この論文の結論は、直接的ではないけども、何かの相互作用があって、rpd3Proの機能に影響を与えているとのこと。

例えば、Proはリン酸化受けるから、rpd3がなくなることで、何かキナーゼのはたらきが落ちて、Proの機能が低下してしまう?などの仮説が書かれていた。

発見としては面白いが、やはりこの2つの相互作用まで突き止めて欲しかった。せめてChIPくらいできなかったのだろうか?