メリークリスマスです!
今日は、2日前に書いた記事の補足をしたいと思います!
まだ読んでいないという方はこちら。
もう読んだという方も、もう一度チラ見してみてね。結構リバイスしました~
何日か寝かしていると、やっぱりたくさん疑問が出たり、読み返すとわかりにくい説明ばかりだったり、リバイスって終わりがありませんが、前回の記事で特に抜けていたなと思うところを補足してみます。
<目次>
- ポップな背景説明の続編
- まじめな背景説明
- 論点1:RNAポリメラーゼの有無によるヒストンアセチル化レベルの変化はHDACに依存するか?
- 論点2:そもそも、「RNA polⅡ阻害」という系は、「転写が開始する前」のモデルになり得るか?
- 論点3:相分離仮説との関連
- 論点4:ヒストンのアセチル化と言うが、いくつか種類がある。ひとまとめに議論していいものか?
- 論点5:著者らのモデルが正しいとして、ヒストンアセチル化ではなくて何が転写を開始させているか?
ポップな背景説明の続編
クリスマスパーティーが盛り上がってきた頃
一同はすぐ近くに"奴"がいることにに気づき始める…
(元ネタlink→*1)
何とも雲行きが怪しくなってきたではありませんか。。。
前回の主人公HATくんが何をしていたかは覚えていますか?
そうです、クリスマスツリーに星の飾りを付けるんでしたよね。
では逆に、星の飾りを取っていくような奴がいるとしたら…?
実はいるんです。
名前を、"HDAC" と言います。
え?名前の由来は何だって?
バイオ系の学生の中には知っている人も多いかもしれませんがHDACは、
Hyper Destroyer of Annoying Christmas
─イライラするクリスマスをすごい勢いで破壊する奴─
の略です*2
名前の通り、すごい勢いでクリスマス気分を終わらせにかかってきます。
図にするとこんな感じ
さて、このHDACの特性を考えると、クリスマスパーティーの始まりや終わりは、むしろHDACにより制御されている気がしてきませんか?
前回の主人公、HATくんが星を付けるのと、どっちが強いのでしょうか?
今回の記事ではこんな感じで、前回の記事では書ききれなかった可能性について、色々考えてみたいと思います。
まじめな背景説明
ヒストンアセチル化は、ヒストンアセチル基転移酵素(Histone Acetyl Transferase:HAT)だけではなく、ヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase:HDAC)によっても制御されています。HDACは文字通り、アセチル化されたヒストンを脱アセチル化する、つまり、ヒストンからアセチル基を取り除く酵素です。
前回説明した通り、ヒストンのアセチル化は転写活性化を促進するので、HDACによりアセチル化が解除されれば、ONになっていた転写がOFFになるという訳です。またHDACは個体レベルでも色々と大事な現象に関わっております。
HDACはヒストンタンパク質のアセチル化状態の恒常性を維持することで転写等の細胞の基本的な活性を制御するのに重要な役割を果たしており、多くの脳疾患でタンパク質のアセチル化レベルが不均衡となっていることが知られている。このような点からも種々のHDAC阻害剤が新たな脳疾患治療薬として有用である可能性が示唆されている。
HDAC阻害剤は神経保護、神経栄養性、及び抗炎症の特徴を有し、学習記憶や脳疾患にみられる他の表現型などを改善できることが示されている
アセチル化 - 脳科学辞典 より引用
なるほど、HDACは大事で、阻害剤も発見されているという訳ですね。
そして、これを踏まえて前回の結果を考えてみると、
RNAポリメラーゼの阻害によりアセチル化が減少したのは、HATの機能低下が原因なのか、HDACの機能亢進が原因なのかって、まだわからないですよね。
ではまずはこのお話から考えてみましょう。
論点1:RNAポリメラーゼの有無によるヒストンアセチル化レベルの変化はHDACに依存するか?
結論から言うと、HDACに依存します。しかし、RNAポリメラーゼ阻害によるヒストンアセチル化の減少は、HDACの機能亢進というよりは、HATの機能低下によるものだと解釈されています。
少しややこしいので表にしてみます。
まず前提として、RNAポリメラーゼを阻害した際に、HATとHDACが受ける影響として、以下の①,②,③の可能性が考えられます。
そこで著者らは、HDACの阻害実験により、上記の可能性を切り分けることを試みます。
実験1
RNAポリメラーゼを阻害する前に、HDACを阻害しました。するとヒストンのアセチル化は低下しなくなりました。実験2
RNAポリメラーゼを阻害した後に、HDACを阻害しました。するとヒストンのアセチル化は低下しました。実験3
RNAポリメラーゼを阻害した後に、HDACを阻害しましたが、HDAC活性を元通りに戻しました。依然としてヒストンのアセチル化は(実験2と同程度)低下したままでした。
実験1, 2, 3は次のように解釈できます。
実験1の解釈: ヒストンアセチル化の減少はHDACの脱アセチル化に依存する(この段階では①,②,③全ての可能性が考えられる)
実験2の解釈: 後からHDACを阻害しても、HATがアセチル化を回復させることはない(これは少なくとも、HATの活性が低下していることを意味するので、③の可能性が消える)
実験3の解釈: HDACの活性を戻しても、さらにアセチル化が低下しない(一度HDACを阻害してしまうと、HDACの活性は完全には元通りにならない可能性もありますが、)(後からHDACの活性を上げ下げしても、ヒストンアセチル化のレベルが綺麗に相関しないので、HDACはそこまで積極的に脱アセチル化能力を獲得したとは考えにくい。つまり②の可能性が消える)
ということで①が残ります。
また、これは阻害実験一般に言えることですが、
- その阻害剤は、本来の目的以外の阻害効果を示す?
→示すとしたら、その副作用は、本来の目的に依存する?
- その化合物の阻害や除去により、目的反応の阻害以外に別の反応は阻害されないの?
→例えば目的の反応のさらに下流の反応は阻害され得るよね?
- その反応阻害に対応する遺伝子KDやKOによる検証はした?
という視点は持った方が良いなぁと日頃から考えています。
(あと、よく分かりませんがHATの阻害実験は行わなかったのですかね。)
論点2:そもそも、「RNA polⅡ阻害」という系は、「転写が開始する前」のモデルになり得るか?
なり得るが、十分ではない、と思います。
なぜなら、この実験から言えることは、 「HATのヒストンアセチル化の多くはRNAポリメラーゼに依存する」 であり、
「転写が起きてからヒストンアセチル化が起きる」 ではないからです。
その理由は、RNAポリメラーゼの転写活性がヒストンアセチル化必要であるかどうかは分からないからです。
(これについては、前回の記事の 著者に疑問をぶつけて、もう少し掘り下げてみる のところを参考にされて下さい。)
論点3:相分離仮説との関連
論点4:ヒストンのアセチル化と言うが、いくつか種類がある。ひとまとめに議論していいものか?
論点5:著者らのモデルが正しいとして、ヒストンアセチル化ではなくて何が転写を開始させているか?
*2:もちろん冗談です。ちゃんとした説明はまじめな背景説明欄をみてね。ちなみに僕はクリスマスを破壊しようなんて思っていませんよ、ははは。