細胞膜ダメージ→局所的なミトコンドリアの断片化→局所的なRhoAの活性化とアクチン重合 (Journal of Cell Biology 2020年4月1日号掲載論文)

結論から言うと、細胞膜に穴が開いたときに、局所的にミトコンドリアが断片化する→ミトコンドリアがカルシウムイオンを取り込む→カルシウムを多く取り込んだミトコンドリアがROSを発生→発生したROSが(恐らくRhoAを酸化することで)RhoAを活性化し、アクチンのポリマー化を誘導することで細胞膜のリモデリングを助け、細胞膜損傷治癒を行う、ということを提唱した論文。

 

本日は「Mitochondrial fragmentation enables localized signaling required for cell repair (ミトコンドリアの断片化は細胞修復に必要な局所的なシグナル伝達を可能にする)」という論文で、米国 children's national health system center for genetic medicine research の Jyoti K. Jaiswal のグループ(どういったラボ?→*1)による研究。(論文サイトへのlink→*2

 

細胞膜に傷がつき穴が開くと、カルシウムが流入します。その損傷箇所で局所的な応答をする仕組みが存在すると考えられていましたが、詳細は不明でした。この論文では、細胞膜に穴が開いたところを基点にミトコンドリアが断片化することが明らかとなり、その意義が局所的なシグナル伝達であることが示唆されました。

 

個人的にクリアにならなかった、複雑で面白い、もっと勉強しないとなぁと思った点↓

  • ミトコンドリアの断片化をDrp1 KOで阻害すると細胞膜損傷時のミトコンドリアでのカルシウムの取り込みと維持の両方が抑圧されることが明らかになったが、どうして断片化したミトコンドリアはカルシウムを取り込みやすい&そのカルシウムが排出されにくいのだろうか?断片化した方が体積あたりの表面積は大きいのでCa取り込みチャネルの効果が大きく反映される?体積が小さくなるのでカルシウムは少し入ってくるだけで濃度が上がる?
  • カルシウム濃度が上がるとミトコンドリアからROSが産生される(これは先行研究でも既知)けれど、過剰なカルシウムは電子伝達系の電子の流れを滞らせることでROSの産生を促すのだろうか?
  • 先行研究で、RhoAのシステイン残基が酸化されることでRhoAが活性化するという報告があるらしいのだけれど、どういう機序でRhoAは活性化するのだろうか?
  • レーザーダメージによる細胞膜損傷という手法が使われているが、なぜレーザーダメージによって穴が開くのだろうか?熱?この手法は筋肉で起きる膜損傷をどこまで再現できているのだろうか?

 

興味を持たれた方はabstractもどうぞ。

Plasma membrane injury can cause lethal influx of calcium, but cells survive by mounting a polarized repair response targeted to the wound site. Mitochondrial signaling within seconds after injury enables this response. However, as mitochondria are distributed throughout the cell in an interconnected network, it is unclear how they generate a spatially restricted signal to repair the plasma membrane wound. Here we show that calcium influx and Drp1-mediated, rapid mitochondrial fission at the injury site help polarize the repair response. Fission of injury-proximal mitochondria allows for greater amplitude and duration of calcium increase in these mitochondria, allowing them to generate local redox signaling required for plasma membrane repair. Drp1 knockout cells and patient cells lacking the Drp1 adaptor protein MiD49 fail to undergo injury-triggered mitochondrial fission, preventing polarized mitochondrial calcium increase and plasma membrane repair. Although mitochondrial fission is considered to be an indicator of cell damage and death, our findings identify that mitochondrial fission generates localized signaling required for cell survival.

(私訳と勝手な注釈) 

細胞膜損傷は致死的なカルシウムの流入を引き起こすが、細胞は創傷部位を標的とした局所修復反応を行うことで生き延びる。損傷後数秒のオーダーでのミトコンドリアのシグナル伝達がこの応答を可能にする。しかし、ミトコンドリアは細胞全体に分布しているため、どのようにして空間的に制限されたシグナルを生成し、細胞膜の傷を修復するのかは不明であった。本研究では、カルシウムの流入とDrp1が介在する損傷部位でのミトコンドリアの迅速な分裂が、局所的な修復反応を可能にすることを示している。傷害部位付近のミトコンドリアの分裂は、これらのミトコンドリアにおけるカルシウムの取り込みと高濃度カルシウム状態の維持を促進し、細胞膜修復に必要な局所的なROSの産生を可能にする。Drp1ノックアウト細胞およびDrp1アダプタータンパク質MiD49を欠損した患者細胞では、傷害をトリガーとしたミトコンドリアの分裂が起こらず、ミトコンドリアのカルシウム増加と局所的な細胞膜修復がキャンセルされる。ミトコンドリア分裂は細胞の損傷や細胞死の指標と考えられているが、これらの知見は、ミトコンドリア分裂が細胞の生存に必要な局所的なシグナルを生成していることを明らかにした。

*1:--- Jyoti researches the cellular mechanism of disease and develop novel treatment approaches. One of his current project is to study the 'Role of mitohondria in repairing injured cells.' ---https://www.researchgate.net/lab/Jyoti-K-Jaiswal-Lab より

*2:https://rupress.org/jcb/article/219/5/e201909154/151605/Mitochondrial-fragmentation-enables-localized