神経軸索が損傷した時、ミトコンドリアのCaイオン取り込み因子のmRNA分解をキャンセルすることで、スムーズにCaイオンを伝達する (Current Biology 2020年1月23日号掲載論文)

結論から言うと、神経軸索が損傷した際に、mRNA分解因子CAR-1の活性が落ち、micu-1(ミトコンドリアへのCaイオン取込チャネルの制御因子)のmRNAが分解から免れることで、ミトコンドリア内Ca濃度が上昇することが、軸索の再成長に重要であることを示した論文。

 

本日は「The mRNA Decay Factor CAR-1/LSM14 Regulates Axon Regeneration via Mitochondrial Calcium Dynamics (mRNA分解因子CAR-1/LSM14は、ミトコンドリアのカルシウムダイナミクスを介して軸索再生を制御する)」という論文で、米国 Section of Neurobiology, Division of Biological Sciences, University of California, San Diego (UCSD) の Dr. Andrew D. Chisholm のグループによる研究。(論文サイトへのlink→*1

 

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画像は元論文のサイトのGraphical abstractから。

 

なるほど、「イチから転写を活性化してmicu-1を発現させる」よりも、「普段からmicu-1の転写活性は高いけれどCAR-1によって分解されている。任意のタイミングで分解をやめることで、micu-1の発現量を増やす」の方が、時間的に速くmicu-1を供給できそうですね。

 

疑問点

なぜミトコンドリアのCaイオンレベルが上がると、神経軸索の成長が亢進するのか?

→可能性1. ミトコンドリアの中でCaイオンに対応して亢進するシグナル経路がアップレギュレートされる
→可能性2. ミトコンドリアの中で何か起きている訳ではなく、サイトゾルにCaイオンが拡散してしまうことを防ぐ意味合いでミトコンドリアに蓄積させておく(その結果として細胞質でのシグナル伝達等がスムーズに進む)

論文中で著者らは1を推していました。Caイオン量が増えることで、ATP産生が亢進するのではないか?ということです(ミトコンドリア内でのマイルドなCa量の増加が酸化的リン酸化を亢進させるという文献があれば要チェックですね)。確かに神経のregrowthにはATPはが普段以上に必要になるので、あり得る仮説だと思いました。

しかし、個人的には可能性2を推します。やっぱり、細胞質にカルシウムがたくさんある状況は、様々な酵素の活性が低下してしまうと思うので(具体的にどのような経路で細胞がdefectを受けるのか調べる必要あり)。

可能性1と2が両方大事っていう可能性ももちろんありますが。

 

どのような経路で、神経が損傷したことが、RNA分解因子に知らされるのか?
RNA分解因子は、Caイオン濃度が高くなると機能しなくなるとか?

 

ラニュールを形成する意義は何か?何かが相分離している可能性が高いが、そのdropletには他にどんなmRNAがいそうか?

 

 

興味を持たれた方はabstractもどうぞ。

mRNA decay factors regulate mRNA turnover by recruiting non-translating mRNAs and targeting them for translational repression and mRNA degradation. How mRNA decay pathways regulate cellular function in vivo with specificity is poorly understood. Here, we show that C. elegans mRNA decay factors, including the translational repressors CAR-1/LSM14 and CGH-1/DDX6, and the decapping enzymes DCAP-1/DCP1, function in neurons to differentially regulate axon development, maintenance, and regrowth following injury. In neuronal cell bodies, CAR-1 fully colocalizes with CGH-1 and partially colocalizes with DCAP-1, suggesting that mRNA decay components form at least two types of cytoplasmic granules. Following axon injury in adult neurons, loss of CAR-1 or CGH-1 results in increased axon regrowth and growth cone formation, whereas loss of DCAP-1 or DCAP-2 results in reduced regrowth. To determine how CAR-1 inhibits regrowth, we analyzed mRNAs bound to pan-neuronally expressed GFP::CAR-1 using a crosslinking and immunoprecipitation-based approach. Among the putative mRNA targets of CAR-1, we characterized the roles of micu-1, a regulator of the mitochondrial calcium uniporter MCU-1, in axon injury. We show that loss of car-1 results increased MICU-1 protein levels, and that enhanced axon regrowth in car-1 mutants is dependent on micu-1 and mcu-1. Moreover, axon injury induces transient calcium influx into axonal mitochondria, dependent on MCU-1. In car-1 loss-of-function mutants and in micu-1 overexpressing animals, the axonal mitochondrial calcium influx is more sustained, which likely underlies enhanced axon regrowth. Our data uncover a novel pathway that controls axon regrowth through axonal mitochondrial calcium uptake.

(私訳と勝手な注釈) 

mRNA分解因子は、翻訳される前のmRNAをリクルートし、翻訳抑制およびmRNA分解の標的とすることにより、mRNA代謝のターンオーバーを調節します。 mRNA分解経路が生体内でどのようにして、細胞機能を特異的に調節するのかはよくわかっていません。この論文では、翻訳抑制因子CAR-1 / LSM14およびCGH-1 / DDX6を含む線虫の mRNA分解因子、および脱キャップ酵素DCAP-1 / DCP1がニューロンで機能して、軸索の発達、維持、および負傷後の再成長に関与していることが示されました。神経細胞体では、CAR-1はCGH-1と完全に共局在し、DCAP-1と部分的に共局在しており、このことはmRNA分解因子が少なくとも2種類の細胞質グラニュールを形成することを示唆しています。成体ニューロンの軸索損傷の後、CAR-1またはCGH-1を欠損した神経は軸索の再成長および成長円錐形成のレベルが増加した一方で、DCAP-1またはDCAP-2を欠損した神経は再成長レベルが減少しました。 どのようにしてCAR-1が軸索の再成長を阻害するのかを判断するために、免疫沈降ベースのアプローチを用いて、全ニューロン発現のGFP :: CAR-1に結合jするmRNAを解析しました。 CAR-1の推定mRNAターゲットの中で、軸索損傷におけるミトコンドリアカルシウムユニポーターMCU-1のレギュレーターであるmicu-1の役割を検証しました。 car-1の欠損でMICU-1タンパク質レベルが増加し、car-1変異体の高い軸索再成長活性がmicu-1およびmcu-1に依存することが明らかとなりました。さらに、軸索損傷の結果、MCU-1に依存した軸索ミトコンドリアへの一時的なカルシウム流入が起きました。 car-1機能喪失変異体およびmicu-1過剰発現では、軸索のミトコンドリアのカルシウム流入がより持続しており、これが軸索再生強化の基盤となる機構かもしれません。以上のデータにより、軸索のミトコンドリアのカルシウムの取り込みを介して軸索の再生を制御する新しい経路の存在が示唆されました。