ERとリソソーム間の接触部位に局在するIP3Rによる、Caイオンの輸送 (Cell Reports 2018年12月11日号掲載論文)
結論から言うと、ERとリソソーム間の接触部位に局在するIP3Rが、ERからリソソームにCaイオンの輸送をしていることを示した論文。
本日は「IP3 Receptors Preferentially Associate with ER-Lysosome Contact Sites and Selectively Deliver Ca2+ to Lysosomes (IP3受容体はER-リソソームの接触部位に集まり、Ca2 +をリソソーム選択的に輸送する)」という論文で、イギリス Department of Pharmacology, University of Cambridge の Dr. Colin W. Taylor のグループによる研究。(論文サイトへのlink→*1)
Caイオンのプローブを用いて、IP3RがリソソームにCaイオンを輸送していることを示し、IP3RがER-リソソーム間のMCSと共局在を示すことから、このMCSのIP3Rを介してCaイオンがERからリソソームへと輸送されていることが示唆されました。
また興味深いことに、リソソームのpHもCaイオンの輸送に関連していました。リソソームのpHを上昇させることで、すぐにCaに変化はないものの、リソソームの大きさが肥大化し、細胞内局在が変化することでIP3Rとの接触が減少し、リソソームのCaイオンの取り込みが低下することがわかりました。
これらの結果から著者らは、リソソームへのCaイオンの輸送という文脈で、ERがコンプレッサーあるいはピストンのように働いているというモデルを提唱しました。つまり、Caイオンに対して親和性の高いSERCAポンプでERにCaイオンを効率的に取り込み、同じく親和性の高いCaイオン排出を担うIP3Rを通して、目的のリソソームに近接した場所に、一気にCaイオンを放出することで、Caに対して親和性の低いリソソーム上の取り込み受容体にCaを流し込んでいるというモデルです。ちなみに、ミトコンドリアにおけるCaイオンの取り込み受容体:MCUも、Caイオン取り込みの効率は低く、ERのIP3Rを経由して、局所的に高濃度のCaイオンを発生させることで取り込む様です。
興味を持たれた方はabstractもどうぞ。
Inositol 1,4,5-trisphosphate (IP3) receptors (IP3Rs) allow extracellular stimuli to redistribute Ca2 + from the ER to cytosol or other organelles.We show, using small interfering RNA (siRNA) and vacuolar H + -ATPase (V-ATPase) inhibitors, that lysosomes sequester Ca2 + released by all IP3R subtypes, but not Ca2 + entering cells through store-operated Ca2 + entry (SOCE) .A low-affinity Ca2 + sensor targeted to lysosomal membranes reports large, local increases in cytosolic [Ca2 +] during IP3- evoked Ca2 + release, but not during SOCE.Most lysosomes associate with endoplasmic reticulum (ER) and dwell at regions populated by IP3R clusters, but IP3Rs do not assemble ER-lysosome contacts. Increasing lysosomal pH does not immediately prevent Ca2 + uptake, but it causes lysosomes to slowly redistribute and enlarge, reduces their association with IP3Rs, and disrupts Ca2 + exchange with ER.In a “piston-like” fashion, ER concentrates cytosolic Ca2 + and delivers it, through large-conductance IP3Rs, to a low-affinity lysosomal uptake system.The involvement of IP3Rs allows extracellular stimuli to regulate Ca2 + exchange between the ER and lysosomes.
(私訳と勝手な注釈)
イノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)受容体(IP3R)により、細胞外刺激により、Ca2+はERからサイトゾルまたはその他のオルガネラに再分配されます。siRNAおよびV-H-ATPase阻害剤を用いることにより、リソソームがIP3R*2から放出されるCa2+取り込む一方で、ストア作動性Ca2 +エントリー(SOCE)を介して細胞に入るCa2+を取り込んでいる訳ではない(つまり、リソソームへのCa2+への取り込みはSOCEと共役していない)ことが示されます。細胞質側のリソソーム膜に局在する低親和性Ca2+レポーター*3により、SOCEではなく、IP3Rの開口によるCa放出に対する、Caの局所的で大きな増加が計測されました。リソソームの多くはは小胞体(ER)と接触しており、ER上のIP3Rクラスターと共局在を示しましたが、IP3Rの欠損はER-リソソーム接触の形成には影響を与えませんでした。リソソームpHの上昇は、即座にCa2+の取り込みを妨げるわけではありませんが、リソソームの分布がゆっくりと変化し、リソソームの大きさが拡大し、IP3Rとの結合が減少し、ERとのCa2+の交換が阻害されました。 「ピストンのような方法」で、ERはサイトゾルのCa2+を濃縮し、Ca2+と親和性の高いIP3Rを介して、Ca2+低親和性のリソソームにおけるCa2+取り込みシステム(哺乳類の系では、どの分子がリソソームにCaを取り込んでいるのかはunknownらしい。)に輸送します。IP3Rの関与により、細胞外刺激がERとリソソーム間のCa2+交換を調節できるようになります。
*1:IP3 Receptors Preferentially Associate with ER-Lysosome Contact Sites and Selectively Deliver Ca2+ to Lysosomes - ScienceDirect
*2:IP3Rには3つのサブタイプがあるが、その3つの全てがredundantに働いており、どのサブタイプからのCaも、リソソームに取り込まれることができる
*3:高濃度にならないと光らないCaイオンプローブのこと。GECOが用いられていた