ERからのCa漏洩が、糸球体上皮細胞の細胞死を誘導する (PNAS 2019年6月24日号掲載論文)

結論から言うと、ネフローゼ症候群のモデルマウスの糸球体上皮細胞において、RyRのリン酸化を原因とするERからのCaイオン漏洩が起きていることを発見し、その漏洩をストップさせる薬剤を投与することで、ERストレスに起因するネフローゼ症候群を回復できることを示した論文。

 

本日は「Discovery of endoplasmic reticulum calcium stabilizers to rescue ER-stressed podocytes in nephrotic syndrome (ネフローゼ症候群におけるERストレスを受けたpodocytesをレスキューする小胞体カルシウム安定化剤の発見)」という論文で、米国 Division of Nephrology, Department of Medicine, Washington University School of Medicine の Ying Maggie Chen のグループ(departmentの名前にあるとおり、腎臓の研究をしているグループのようです)による研究。(論文サイトへのlink→*1

 

まとめ図のlinkはこちら。
https://www.pnas.org/content/pnas/116/28/14154/F8.large.jpg?width=800&height=600&carousel=1
(元論文のFIg8です)

モデルマウスのRNA-seqから、RyRをターゲットとして取ってきていますが、なぜこのマウスモデルで、RyRのリン酸化レベルが上昇するのでしょう。1番プライマリーな刺激 or 1番上流の遺伝子変異が何なのか気になりますね。

それと、イントロによると、RyRの発現は(サブタイプにもよりますが)心臓や筋肉で特に高く、その他の組織ではそこまで高くないそうですので、この論文の結果を他の細胞種にも直接当てはめるのはリスキーな気がしますね。
 

興味を持たれた方はabstractもどうぞ。

Emerging evidence has established primary nephrotic syndrome (NS), including focal segmental glomerulosclerosis (FSGS), as a primary podocytopathy. Despite the underlying importance of podocyte endoplasmic reticulum (ER) stress in the pathogenesis of NS, no treatment currently targets the podocyte ER. In our monogenic podocyte ER stress-induced NS/FSGS mouse model, the podocyte type 2 ryanodine receptor (RyR2)/calcium release channel on the ER was phosphorylated, resulting in ER calcium leak and cytosolic calcium elevation. The altered intracellular calcium homeostasis led to activation of calcium-dependent cytosolic protease calpain 2 and cleavage of its important downstream substrates, including the apoptotic molecule procaspase 12 and podocyte cytoskeletal protein talin 1. Importantly, a chemical compound, K201, can block RyR2-Ser2808 phosphorylation-mediated ER calcium depletion and podocyte injury in ER-stressed podocytes, as well as inhibit albuminuria in our NS model. In addition, we discovered that mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor (MANF) can revert defective RyR2-induced ER calcium leak, a bioactivity for this ER stress-responsive protein. Thus, podocyte RyR2 remodeling contributes to ER stress-induced podocyte injury. K201 and MANF could be promising therapies for the treatment of podocyte ER stress-induced NS/FSGS.

(私訳と勝手な注釈) 

近年のエビデンスにより、焦点性細分化糸球体硬化症(FSGS)を含む原発ネフローゼ症候群(NS)が、一次性のポドサイトパチーであることが確立された。NSの発症にはポドサイトの小胞体(ER)ストレスが根本的に重要であるにもかかわらず、現在のところポドサイトERを標的とした治療法はない。我々が開発した単発性ポドサイト小胞体ストレス誘発性NS/FSGSマウスモデルでは、ポドサイト小胞体上の2型リアノジン受容体(RyR2)/カルシウム放出チャネルがリン酸化され、小胞体カルシウム漏出と細胞質カルシウム上昇を引き起こしていた。この細胞内カルシウム恒常性の変化は、カルシウム依存性細胞質プロテアーゼであるカルパイン2の活性化と、その重要な下流基質(アポトーシス分子であるプロカスパーゼ12とポッドサイト細胞骨格タンパク質であるタリン1を含む)の切断につながった。 重要なことに、化学物質K201は、ERストレスを受けたポドサイトにおいて、RyR2-Ser2808リン酸化を介したERカルシウム枯渇とポドサイト傷害をブロックし、我々のNSモデルではアルブミン尿を抑制することができた。さらに、中脳アストロサイト由来神経栄養因子(MANF)が、ストレス応答性タンパク質である RyR2 誘導性 ER カルシウム漏出を回復させることを発見した。このように、ポドサイトのRyR2リモデリングは、ERストレス誘発ポドサイト傷害に寄与している。K201とMANFは、ポドサイトのERストレス誘発性NS/FSGSの治療のための有望な治療法である可能性がある。