RNA顆粒-エンドソーム-ミトコンドリア:後期エンドソームがミトコンドリアタンパク質翻訳の足場になる (Cell 2019年1月10日号掲載論文)

結論から言うと、神経軸索において、後期エンドソームが足場となり、ミトコンドリアのタンパク質が局所翻訳されることを示した論文。

 

2019年1月10日号のCellに掲載の「Late Endosomes Act as mRNA Translation Platforms and Sustain Mitochondria in Axons. (後期エンドソームはmRNA翻訳プラットフォームとして機能し、軸索のミトコンドリアを維持する。)」という論文で、英国Department of Physiology, Development and Neuroscience, University of Cambridgeの Dr. Christine E. Holtらによる研究。*1

 

後期エンドソームという、完全に分解の経路にある小器官が、局所的なタンパク質合成の足場になるというおもしろさから選びました。

まず、タンパク質の局所的な翻訳(以下、局所翻訳)については、様々な研究がなされており、よく保存された現象です。神経のような、大きくて核から離れた場(神経の場合はシナプス)で機能を持つ細胞にとっては、局所翻訳が特に大きな役割を担うとされています。局所的に翻訳を行うためには、まずmRNAを特定の場所に局在させないといけませんが、神経でのRNA局在の機構、例えば「何がRNAを運んでいるのか?」「どのようなRNAが特定の場にあつまるのか?」ということに関しては、まだまだ研究の余地があります。

そこで著者らは、先行研究において菌類の体を構成する菌糸の形成においては、エンドソームが足場となって局所翻訳が行われることに着想を得て、神経の局所翻訳にエンドソームが関連しているかを調査しました。結果をまとめると、神経軸索のRNA顆粒及びリボソームが後期エンドソームと共局在しており、そこで局所翻訳が起きていることを明らかにします。そして、その複合体がミトコンドリアと頻繁に共局在することを発見し、そこで局所翻訳されているのもミトコンドリアタンパク質であることを突き止めます。最後に、Rab7a[*後期エンドソーム及びリソソームの構成タンパク質。後期エンドソームの成熟やリソソームとの融合を制御している。後期エンドソームのマーカーとしても用いられる]の変異[*CMT2Bに関連する変異を含む]を持った神経において、局所翻訳の低下、ミトコンドリアの機能低下、神経のviabilityの減少が起きることを明らかにしました。

昨日紹介したオルガネラコンタクト的な文脈でこの論文を見てみると、、、

  • エンドソームが局所翻訳の足場になるとき、どのようにしてRNA顆粒がエンドソームにテザリングしているのか気になりますね。(菌糸の先行研究では、脂質結合タンパク質がテザリング分子として機能していることが示唆されています。)「膜を持った」オルガネラと、相分離により生まれた「膜を持たない」顆粒の相互作用って、なんだかワクワクします。
  • 足場となる後期エンドソームとタンパク質を受け取るミトコンドリアの間でコミュニケーションが取られていて、タンパク質が過不足なく供給されるはずですが、そのプロセスはどのように制御されているのでしょうか?

またこの論文では、後期エンドソームだけではなく実は初期エンドソームも、mRNAやリボソームと共局在することが示されています。一方で初期エンドソーム構成タンパクのRab5a変異体では局所翻訳に目立った差が見受けられず、神経における局所翻訳には後期エンドソームが大切だ、という流れで研究が行われました。(なのでabstractなどには初期エンドソームは出てこないという訳です。)冒頭で触れた、後期エンドソームという「分解」の小器官で、「合成」(タンパク質の局所翻訳)という現象が起きるという点について、これに生物にとってどのようなメリット(意義)があるのだろうか?という問いを考えたりすると、色々おもしろい仮説が出てくるかもしれませんね。

 

興味を持たれた方はabstractもどうぞ。

Local translation regulates the axonal proteome, playing an important role in neuronal wiring and axon maintenance. How axonal mRNAs are localized to specific subcellular sites for translation, however, is not understood. Here we report that RNA granules associate with endosomes along the axons of retinal ganglion cells. RNA-bearing Rab7a late endosomes also associate with ribosomes, and real-time translation imaging reveals that they are sites of local protein synthesis. We show that RNA-bearing late endosomes often pause on mitochondria and that mRNAs encoding proteins for mitochondrial function are translated on Rab7a endosomes. Disruption of Rab7a function with Rab7a mutants, including those associated with Charcot-Marie-Tooth type 2B neuropathy, markedly decreases axonal protein synthesis, impairs mitochondrial function, and compromises axonal viability. Our findings thus reveal that late endosomes interact with RNA granules, translation machinery, and mitochondria and suggest that they serve as sites for regulating the supply of nascent pro-survival proteins in axons.

(私訳と勝手な注釈) 

神経軸索におけるプロテオームは局所翻訳により調節されています。局所翻訳はニューロンのwiring[*はりめぐらせること?]と軸索の恒常性維持に重要な役割を果たします。しかし、軸索におけるmRNAが、局所翻訳という文脈で、どのように細胞内部位に局在するかは理解されていません。本論文では、RNA顆粒が網膜神経節細胞の軸索に沿ってエンドソームと相互作用することを報告します。 RNAと共局在を示すRab7aはリボソームと会合し、それらが局所タンパク質合成の場であることが、リアルタイム翻訳イメージングにより明らかになりました。 また、RNAと共局在を示す後期エンドソームは、ミトコンドリアと頻繁に共局在しており、ミトコンドリアで機能を持つタンパク質をコードするmRNAが、後期エンドソームで翻訳されることが示されました。シャルコー・マリー・トゥース2B型神経障害に関連するRab7aの変異により、Rab7aの機能を欠失させた神経では、軸索タンパク質合成が著しく減少し、ミトコンドリア機能を損ない、vaiabilityが低下しました。したがって、我々の発見は、後期エンドソームがRNA顆粒、翻訳機構、およびミトコンドリアと相互作用し、それらが軸索の生存を促進させるタンパク質の供給を調節する部位として機能することを示唆しています。