翻訳と無関係にmRNAがERに局在化する (Plos Biology 2012年5月29日号掲載論文)

結論から言うと、mRNA がリボソームに依存せずにER 局在化する経路が存在し、このプロセスにはp180 というタンパク質が必要であることを示した論文。

 

本日は「p180 Promotes the Ribosome-Independent Localization of a Subset of mRNA to the Endoplasmic Reticulum (p180はリボソームに依存しない小胞体へのmRNAの局在化を促進する)」という論文で、カナダ Department of Biochemistry, University of Toronto の Andrea Daga のグループ(どういったラボ?→*1)による研究。(論文サイトへのlink→*2

  

 ちょっと構造に分けて説明していきます。

背景       分泌タンパク質や膜結合タンパク質をコードするmRNAの大部分が小胞体(ER)表面(内腔ではないことに注意)で翻訳されている。これらのmRNAの小胞体表面へのターゲティングはシグナル配列によって行われ、その維持はリボソームとトランスロコンの相互作用によって行われる。一方で近年、さらなる別の経路(以下alternative pathway)でmRNAが小胞体に局在化することが明らかになってきている。

課題       alternative pathwayがどのような機構でmRNAをERに局在化するのか不明である。

目的       alternative pathwayに関与するタンパク質を同定し、その機構を解明する。

方法       ER画分からラフER(ポリソームをよく含む)画分を分離し、そのラフER画分にRNAse A処理をしたとき上清に来るタンパク質の質量分析を行う。「ラフERに存在しながら、インタクトなRNAが存在しないと同じ画分に落ちてこないタンパク質群」=「ラフER においてリボソームと独立してRNAに結合するタンパク質」を含む、という仮説にもとづく。

結果①   リボソームや翻訳とは無関係にERに標的化され、ERに局在したままであるmRNAが存在する。

結果②   質量分析の結果、このプロセスに関与しているであろうmRNA結合タンパク質; p180を同定した。(p180はもともとERの膜タンパク質として知られていた。リボソームとも相互作用する)

結果③   p180にはリジンに富んだ領域があり、RNAと直接相互作用できることをin vitroで示した。

結果④   p180のKDにより、p180がバルクmRNAのpoly Aの効率的なERへのアンカーリングに必要である(poly Aを標識したFISHでERとの共局在を見ただけなので、poly Aとp180が結合しているかは不明)ことと、placental alkaline phosphataseやカルレティキュリンなどの特定のmRNAのERへのアンカーリングに必要であることを示した

考察       このalternative pathwayは、1)タンパク質選別の正確性を高める、2)mRNAをERの様々なサブドメインに局在させる、という意義があるかもしれない。

結論       mRNAがリボソームに依存せずにER局在化するalternative pathwayが存在し、このプロセスにはp180が必要である。

意見       リボソームが来る前にmRNAをERに局在させることができれば、局所的な翻訳効率が上がりそうだが、そのようなプロセスが必要な生理的条件があるのか疑問が残った。 

 

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Fig. 1C. poly AのFISH. puromycin+EDTAで翻訳の阻害/homoharringtonine (HTT)で翻訳の開始の阻害をしても、mRNAがERに局在する(ERマーカーとの共局在まで見るべきとは思う。翻訳阻害をしていない条件でのERとmRNAの局在しか見ていなかった)。

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Fig. 8F. ALPPのFISH. HTTで翻訳開始を阻害しても、ALPP mRNAがERに局在する(cont)。それがp180のKDでキャンセルされる。

 

そのmRNAは、何のためにERを目指すのだろう? 

 

興味を持たれた方はabstractもどうぞ。

In metazoans, the majority of mRNAs coding for secreted and membrane-bound proteins are translated on the surface of the endoplasmic reticulum (ER). Although the targeting of these transcripts to the surface of the ER can be mediated by the translation of a signal sequence and their maintenance is mediated by interactions between the ribosome and the translocon, it is becoming increasingly clear that additional ER-localization pathways exist. Here we demonstrate that many of these mRNAs can be targeted to, and remain associated with, the ER independently of ribosomes and translation. Using a mass spectrometry analysis of proteins that associate with ER-bound polysomes, we identified putative mRNA receptors that may mediate this alternative mechanism, including p180, an abundant, positively charged membrane-bound protein. We demonstrate that p180 over-expression can enhance the association of generic mRNAs with the ER. We then show that p180 contains a lysine-rich region that can directly interact with RNA in vitro. Finally, we demonstrate that p180 is required for the efficient ER-anchoring of bulk poly(A) and of certain transcripts, such as placental alkaline phosphatase and calreticulin, to the ER. In summary, we provide, to our knowledge, the first mechanistic details for an alternative pathway to target and maintain mRNA at the ER. It is likely that this alternative pathway not only enhances the fidelity of protein sorting, but also localizes mRNAs to various subdomains of the ER and thus contributes to cellular organization.

(私訳と勝手な注釈) 

分泌タンパク質や膜結合タンパク質をコードするmRNAの大部分が小胞体(ER)表面で翻訳されている。これらのmRNAの小胞体表面へのターゲティングはシグナル配列によって行われ、その維持はリボソームとトランスロコンの相互作用によって行われる。一方で近年さらなる小胞体局在化経路が存在することが次第に明らかになってきている。ここでは、こういったmRNAの多くがリボソームや翻訳とは無関係にERに標的化され、ERに関連したままであることを示している。ERと結合したポリソームと結合するタンパク質の質量分析を用いて、このプロセスに関与しているであろうmRNA受容体を同定した。その中にはp180が含まれており、p180は正電荷を帯びている発現量の高いタンパク質である。我々は、p180の過剰発現が一般的なmRNAとERとの関連性を高めることを示した。さらに、p180には、RNAと直接相互作用することができるリジンに富んだ領域が含まれていることをin vitroで示した。最後に、p180がバルクポリ(A)の効率的なERへのアンカーリングと、placental alkaline phosphataseやカルレティキュリンなどの特定の転写物のERへのアンカーリングに必要であることを示した。以上のことから、我々は、mRNAを標的とし、ERで維持する経路の中でもnon-cannnonicalな経路のメカニズムの詳細を初めて明らかにした。このnon-cannnonicalな経路は、タンパク質選別の正確性を高めるだけでなく、mRNAをERの様々なサブドメインに局在させ、細胞の組織化に貢献している可能性がある。

*1:このグループはmRNAに主眼をおいていて、mRNAの核外への輸送, 適切なmRNAの局在, ERにおける翻訳と細胞質における翻訳の違い、等を研究しているラボのようです。 --1) How are mRNAs exported from the nucleus? 2) How are mRNAs localized to their proper subcellular destination, such as the endoplasmic reticulum? 3) How does mRNA translation in the cytosol differ from translation on the endoplasmic reticulum? -- http://biochemistry.utoronto.ca/person/alexander-f-palazzo/より。このトロント大学のbiochemistryのwebページがカッコよい!

*2:https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.1001336