mtDNA漏洩の新たなメカニズム (Science 2019年12月20日号掲載論文)

 結論から言うと、VDACオリゴマーがmtDNA放出孔として機能していることを発見し、その下流で起きる炎症反応が自己免疫疾患に関与していることを示した論文。

 

本日は「VDAC oligomers form mitochondrial pores to release mtDNA fragments and promote lupus-like disease (VDACオリゴマーはミトコンドリアの孔を形成してmtDNA断片を放出し、ループス様疾患を促進する)」という論文で、米国 NHLBI (NIHが母体らしい) の Laboratory of Obesity and Aging Research, Cardiovascular Branch の Dr. Jay H. Chung のグループによる研究。(論文サイトへのlink→*1

 

ミトコンに孔が開いてmtDNAがサイトゾルに放出~系の論文です

ミトコン膜に孔が形成され、そこからミトコンの内容物が放出されるというのは、今までにも報告がされていました。

ミトコン膜で孔形成

mtDNA放出

サイトゾルでcGASが感知

STINGが炎症反応を誘導

という感じです。

以下は腎臓損傷の論文ですが、流れがわかりやすいので載せておきます。

https://marlin-prod.literatumonline.com/cms/attachment/c3c23d82-2a5b-408c-9cb1-64a6f5aa5718/fx1.jpg

Mitochondrial Damage Causes Inflammation via cGAS-STING Signaling in Acute Kidney Injury | Cell Reports
より、Graphical abstractを引用

 

さて、今回紹介する論文のVDACですが、voltage-dependent anion channel の略で、その名の通り電位に依存して開く陰イオンのチャネルです。酸化ストレス下でVDACがオリゴマー化してミトコン外膜で孔を形成することが報告されていたため、VDACがmtDNA放出に寄与していないか調べたということです。今までのアポトーシス研究で報告されていたBAX/BAKによる孔形成とは異なる孔が発見されたという点で大きな意義があると思います。

(今までの研究では、VDACオリゴマーはCaイオンの代謝やインフラマソームの活性化に関与していることが報告されていたそうです。ここからは妄想ですが、mtDNAの放出とCaイオンの流入/出が共役したりするはずで、VDACオリゴマーって、どこまで選択的に物質の出し入れができるのでしょうね。興味が止まりません…!)

また、細胞死が起きない状況でも、ミトコンから内容物が放出されるという報告は、これからもドンドン増えていくと思います。(個人的には、以前パーキンソン病モデルでの報告を見たことがありました)

 

興味を持たれた方はabstractもどうぞ。

Mitochondrial stress releases mitochondrial DNA (mtDNA) into the cytosol, thereby triggering the type Ι interferon (IFN) response. Mitochondrial outer membrane permeabilization, which is required for mtDNA release, has been extensively studied in apoptotic cells, but little is known about its role in live cells. We found that oxidatively stressed mitochondria release short mtDNA fragments via pores formed by the voltage-dependent anion channel (VDAC) oligomers in the mitochondrial outer membrane. Furthermore, the positively charged residues in the N-terminal domain of VDAC1 interact with mtDNA, promoting VDAC1 oligomerization. The VDAC oligomerization inhibitor VBIT-4 decreases mtDNA release, IFN signaling, neutrophil extracellular traps, and disease severity in a mouse model of systemic lupus erythematosus. Thus, inhibiting VDAC oligomerization is a potential therapeutic approach for diseases associated with mtDNA release.

(私訳と勝手な注釈) 

ミトコンドリアのストレスは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)をサイトゾルに放出し、それによってtype1インターフェロン(IFN)応答を引き起こします。 ミトコンドリアの外膜透過性は、mtDNAの放出に必要であり、アポトーシス細胞で広く研究されていますが、生きた細胞におけるその役割についてはほとんど知られていません。 酸化ストレスを受けたミトコンドリアは、この論文では、ミトコンドリア外膜の電圧依存性アニオンチャネル(VDAC)オリゴマーによって形成された孔を介して短いmtDNAフラグメントを放出することがわかりました。 さらに、mtDNAはVDAC1のN末端ドメインの正電荷残基と相互作用し、VDAC1のオリゴマー化を促進します。 VDACオリゴマー化阻害剤であるVBIT-4は、全身性エリテマトーデスのマウスモデルにおいて、mtDNA放出、IFNシグナル伝達、好中球細胞外トラップを低下させ、疾患の症状も軽くなりました。 したがって、VDACオリゴマー化の阻害は、mtDNA放出に関連する疾患の治療アプローチになり得ます。