リン脂質カルジオリピンのミトコンドリア外膜への移動が、マイトファジーの引き金となる (nature cell biology 2013年11月10日号掲載論文)

結論から言うと、ミトコンドリアの外膜にカルジオリピンが移動することが、マイトファジーを作動させるための"eat-me"シグナルであることを示した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、2013年11月10日号nature cell biologyに掲載の「Cardiolipin externalization to the outer mitochondrial membrane acts as an elimination signal for mitophagy in neuronal cells. (ミトコンドリア外膜へのカルジオリピンの移動は、神経細胞におけるマイトファジーミトコンドリア排除シグナルとして作用する。)」という論文で、米国University of PittsburghのDr. Valerian E. Kaganの仕事である。*1

 

論文の視覚的なイメージには、Figure 6. Schematic diagram summarizing the proposed role of CL in mitochondrial autophagy. を参考にすると良いと思います。

 

abstract

Recognition of injured mitochondria for degradation by macroautophagy is essential for cellular health, but the mechanisms remain poorly understood. Cardiolipin is an inner mitochondrial membrane phospholipid. We found that rotenone, staurosporine, 6-hydroxydopamine and other pro-mitophagy stimuli caused externalization of cardiolipin to the mitochondrial surface in primary cortical neurons and SH-SY5Y cells. RNAi knockdown of cardiolipin synthase or of phospholipid scramblase-3, which transports cardiolipin to the outer mitochondrial membrane, decreased the delivery of mitochondria to autophagosomes. Furthermore, we found that the autophagy protein microtubule-associated-protein-1 light chain 3 (LC3), which mediates both autophagosome formation and cargo recognition, contains cardiolipin-binding sites important for the engulfment of mitochondria by the autophagic system. Mutation of LC3 residues predicted as cardiolipin-interaction sites by computational modelling inhibited its participation in mitophagy. These data indicate that redistribution of cardiolipin serves as an 'eat-me' signal for the elimination of damaged mitochondria from neuronal cells.

(私訳と勝手な注釈) 

マクロオートファジーによる分解を行うために、傷ついたミトコンドリアを認識することは、細胞の健康にとって必要不可欠であるが、メカニズムはあまり理解されていないままである。カルジオリピンはミトコンドリア内膜リン脂質である。著者らは、ロテノン、スタウロスポリン、6-ヒドロキシドーパミン、および他のプロマイトファジー刺激*2が、皮質ニューロンの初代培養細胞およびSH-SY5Y細胞において、ミトコンドリア表面へのカルジオリピンの移動を引き起こすことを見出した。カルジオリピンシンターゼまたはカルジオリピンをミトコンドリア外膜に輸送するリン脂質スクランブレース-3のRNAiノックダウンは、ミトコンドリアへのオートファゴソームの輸送を減少させた。さらに、オートファゴソームの形成およびカーゴの認識の両方を媒介するオートファジータンパク質である微小管関連タンパク質-1軽鎖 3(LC3)が、カルジオリピン結合部位を含み、それがマイトファジーに重要なはたらきをすることを見出した。計算モデリングにより、カルジオリピン相互作用部位として予測されたLC3残基の突然変異は、LC3がマイトファジーへ関与することを阻害した。これらのデータは、カルジオリピンのミトコンドリア外膜へ移動が、神経細胞から損傷したミトコンドリアを排除するための"eat-me"シグナルとして機能することを示している。

 

 少し古い論文だが読む価値があったと思う。

このブログでも過去2回ほど取り上げたことのあるカルジオリピンが、マイトファジーのトリガーであるということを示した論文だ。カルジオリピンについてあまり理解しないままカルジオリピン関連の論文を読んでしまっていたが、改めてカルジオリピンについて調べてみると以下の日本語の総説が見つかった。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/133/5/133_13-00052/_pdf/-char/ja

導入の部分を参考にすると、

カルジオリピンは他のリン脂質とは大きく異なる、ミトコンドリアに固有のリン脂質であり、ミトコンドリア膜タンパク質の高次構造の維持と活性の調節、ミトコンドリア特有の構造であるコンタクトサイト*3やクリステの構築、ミトコンドリア融合やアポトーシスの制御など多彩な機能を有している。

以上のことを考えると、やはりカルジオリピンが神経変性疾患ミトコンドリア病に深く関わっているのだろうということに確信が持てた。

 

なお著者らはディスカッションで、酸化されたCLアポトーシス促進因子の放出に必要であることから、もしマイトファジーが適切にはたらかずに取り残された場合、CLが酸化されることでアポトーシスが起こり、その細胞を死に向かわせるのではないかと述べている。なるほどもしそうであるとしたら、細胞というものはよく出来ているものだなあと感心した。

 

ちなみに、こちらの記事を読むとミトコンドリアの基本事項について良くおさらいできた。

ミトコンドリアの構造 (1): 梵の隠れ家

 

*1:Cardiolipin externalization to the outer mitochondrial membrane acts as an elimination signal for mitophagy in neuronal cells | Nature Cell Biology

*2:マイトファジーを引き起こす刺激

*3:ミトコンドリア内膜と外膜が接合、あるいは融合して、二重の層ではなくなっている部分