サイトカインならぬ、マイトカイン("mito"kine)によるミトコンドリアストレス応答の伝播が進む経路とは? (Cell 2018年8月23日号掲載論文)

要するに、細胞非自律的なUPRmtを引き起こすシグナリングがレトロマー(VPS35)→Wnt→セロトニンという経路であることを提案した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、2018年8月23日号Cellに掲載の「The Mitochondrial Unfolded Protein Response Is Mediated Cell-Non-autonomously by Retromer-Dependent Wnt Signaling. (ミトコンドリアストレス応答は、レトロマー依存的なWntシグナリングによって細胞非自律的に制御される)」という論文で、米国University of California, BerkeleyのDr. Andrew Dillinと中国University of Chinese Academy of SciencesのDr. Ye Tianの仕事である*1

 

論文の視覚的なイメージには、graphical abstractを参考にすると良いと思います。

 

Abstract

The mitochondrial unfolded protein response (UPRmt) can be triggered in a cell-non-autonomous fashion across multiple tissues in response to mitochondrial dysfunction. The ability to communicate information about the presence of mitochondrial stress enables a global response that can ultimately better protect an organism from local mitochondrial challenges. We find that animals use retromer-dependent Wnt signaling to propagate mitochondrial stress signals from the nervous system to peripheral tissues. Specifically, the polyQ40-triggered activation of mitochondrial stress or reduction of cco-1 (complex IV subunit) in neurons of C. elegans results in the Wnt-dependent induction of cell-non-autonomous UPRmt in peripheral cells. Loss-of-function mutations of retromer complex components that are responsible for recycling the Wnt secretion-factor/MIG-14 prevent Wnt secretion and thereby suppress cell-non-autonomous UPRmt. Neuronal expression of the Wnt ligand/EGL-20 is sufficient to induce cell-non-autonomous UPRmt in a retromer complex-, Wnt signaling-, and serotonin-dependent manner, clearly implicating Wnt signaling as a strong candidate for the ‘‘mitokine’’ signal.

 

(私訳と勝手な注釈)

ミトコンドリア機能不全に対する応答として、複数の組織にわたって細胞非自律的様式*2ミトコンドリアストレス応答(UPRmt)が誘導される。ミトコンドリアストレスを感知し、その情報を伝達する能力は、各組織におけるミトコンドリアの障害から、最終的に生体自身を守るグローバルな応答を可能にする。著者らは、レトロマー依存性Wntシグナリングによって、ミトコンドリアのストレスが神経系から末梢組織に伝播していることを発見した*3。具体的には、C. elegansの神経における、PolyQ40(40に連なったポリグルタミン鎖の過剰発現)によるミトコンドリアストレスまたは呼吸鎖複合体IVのサブユニットであるcco-1の減少により、Wnt依存的な末梢細胞における細胞非自律性UPRmtが誘導される。 Wnt分泌因子/MIG-14をリサイクルするレトロマー複合体のサブユニットにおける機能喪失変異は、Wnt分泌を防止し、細胞非自律性UPRmtも抑制する。 Wntリガンド/EGL-20の神経における発現は、レトロマー複合体、Wntシグナル伝達、およびセロトニン依存的な様式で細胞非自律的UPRmtを誘導するのに十分であり、*4Wntシグナル伝達が ‘‘mitokine’’シグナリング*5の有力な候補であることが提案された。

 

レトロマー依存であることをスクリーニングによって発見したのだから、これをパーキンソン病のメカニズムとして提唱するような方向でのdiscussionを期待したが、あまり言及されていなかった。

とはいえ、今回ROSがあんまり出てこなかったので、Andrew Dillinさんの論文をもう一本おかわりしたいと思います。この人年に何本cellに出してんだ...

Pubulication見てると、cell同時2本掲載とかつよ。。意味分かんないです。*6cellなうなうですね。今話題のねいちゃーあーてぃくるなうなう(first co-responding)には敵いませんが。笑

*1:https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(18)30797-9

*2:単一細胞内の反応で引き起こされる様式ではなく、シグナリングなどを介した様式ということ

*3:これはEMSスクリーニングによる発見。細胞非自律的なUPRmtが壊れているが、細胞自律的なUPRmtは壊れていないような突然変異をとってきた。具体的にはレトロマー構成因子のVPS35がヒットした。VPS35は家族性PDの原因遺伝子の1つ。

*4:この、必要なだけでなく、十分であるというのがまたアツい。

*5:これは、サイトカイン(細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称)をもじったもので、マイトカインと発音するのだろう。

*6:Publications | Dillin Lab