ミトコンドリアがダイナミックに振る舞う意義とは何なのか?(Cell Metabolism2018年10月2日号掲載予定論文)

今回abstractを全訳するのは、2018年10月2日号のCell Metabolismに掲載予定の「Mitochondrial Stasis Reveals p62-Mediated Ubiquitination in Parkin-Independent Mitophagy and Mitigates Nonalcoholic Fatty Liver Disease.(ミトコンドリアの分裂と融合の停止が示したParkinに依存しないマイトファジーをひき起こすp62を介したユビキチン化および非アルコール性脂肪性肝疾患の症状の抑制)」という論文。

米国ジョンズ・ホプキンズ大学Department of Cell Biologyの瀬崎博美教授が率いるラボからのお仕事。

以下参考記事をもとにした全訳

ミトコンドリアの分裂と融合の両方が完全に阻止された場合、何が起こるのだろうか。この論文では、肝臓における分裂(Drp1)および融合(Opa1)のための2つのダイナミン関連GTPaseを欠失させることによって、ミトコンドリアの均衡状態を導入した。ミトコンドリアを均衡状態におくことで、単一のノックアウト(KO)*1によって引き起こされる肝臓損傷および低栄養性がレスキューされた。細胞レベルでは、ミトコンドリアを均衡状態におくことで、ミトコンドリアの大きさを再構成し、分裂不全によって引き起こされるマイトファジーの欠陥がレスキューされた。*2 Drp1をKOした肝臓を用いて、著者らは、一般にユビキチン化の下流で機能すると考えられているオートファジーアダプタータンパク質p62/sequestosome-1が、ミトコンドリアのユビキチン化を促進することを新規に発見した。 このp62が、cullin-RINGユビキチンE3リガーゼ複合体の2つのサブユニット、Keap1およびRbx1をミトコンドリアリクルートするという経路が提案されている。 これらはDrp1KOしたときだけの現象ではなく、非アルコール性脂肪性肝疾患の肝臓ではミトコンドリアが巨大化し、マイトファジー中間体が蓄積していることが示されている。さらにDrp1Opa1のダブルKOによるミトコンドリアの均衡状態と同様に、Opa1のKOがこの疾患モデルの肝臓損傷をレスキューする。以上のデータは、ミトコンドリアの均衡状態が、ミトコンドリアの空間次元について定常平衡に導くこと*3、及び、マイトファジーにおけるミトコンドリアのユビキチン化の新規経路という新しい概念を提供する。

 

これは面白い。要するに、ミトコンドリアの分裂・融合が起きることそれ自体は重要ではなく、ミトコンドリアの大きさが大事である*4、そして、その大きさの異常がマイトファジー*5を阻害することで疾患になる、という論文。

これがミトコンドリア全般に言えることだとしたら、ミトコンドリアをライブイメージングする必要性がグンと下がるように思う。マイトファジーの新規経路もアツい。

 

なお今回の記事に関しては以下の新着論文レビューの記事を参考にして書きました。*6

ミトコンドリアの分裂と融合の停止が示したマイトファジーをひき起こすユビキチン化および非アルコール性脂肪性肝疾患の症状の抑制 : ライフサイエンス 新着論文レビュー

*1:Drp1KOのみ或いはOpa1KOのみ

*2:この段階で、ミトコンドリアの巨大化がマイトファジーミトコンドリア選択的なオートファジーの非効率化をひき起こし,組織の損傷の原因になることが明らかになった。

*3:つまり、大きさを整えるってこと

*4:逆に言えば、肝細胞におけるミトコンドリアの分裂と融合の意義はミトコンドリアの大きさを制御することであるということが示されたのである。

*5:このマイトファジーはPink1-Parkin経路に非依存的で著者らが新規に見つけた経路で起こる

*6:既に著者ら直々の解説があるので、そちらも是非参考にされて下さい。