神経発生における細胞質翻訳とミトコンドリア翻訳の異なる影響 (nature neuroscience 2007年5月27日オンライン掲載論文)

結論から言うと、2CMTの原因遺伝子GARSが軸索および細胞体末端の突起分岐形成に必要であることを明らかにし、その細胞質における翻訳は細胞体と軸索の両方に必要で、ミトコンドリアにおける翻訳は細胞体の突起分岐形成に必要であるということを示し、神経発生にはタンパク質がどこで翻訳されるかが重要であることを提案した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、2007年5月27日nature neuroscienceにオンライン掲載の「Cytoplasmic and mitochondrial protein translation in axonal and dendritic terminal arborization. (軸索および樹状細胞末端の分岐における、細胞質およびミトコンドリアにおけるタンパク質の翻訳。)」という論文で、米国 Stanford University の Dr. Liqun Luoの仕事である。*1

 

Abstract

We identified a mutation in Aats-gly (also known as gars or glycyl-tRNA synthetase), the Drosophila melanogaster ortholog of the human GARS gene that is associated with Charcot-Marie-Tooth neuropathy type 2D (CMT2D), from a mosaic genetic screen. Loss of gars in Drosophila neurons preferentially affects the elaboration and stability of terminal arborization of axons and dendrites. The human and Drosophila genes each encode both a cytoplasmic and a mitochondrial isoform. Using additional mutants that selectively disrupt cytoplasmic or mitochondrial protein translation, we found that cytoplasmic protein translation is required for terminal arborization of both dendrites and axons during development. In contrast, disruption of mitochondrial protein translation preferentially affects the maintenance of dendritic arborization in adults. We also provide evidence that human GARS shows equivalent functions in Drosophila, and that CMT2D causal mutations show loss-of-function properties. Our study highlights different demands of protein translation for the development and maintenance of axons and dendrites.

 

私訳と勝手な注釈。著者らはモザイク遺伝子スクリーニング[*MARCM法により、突然変異が起きている単一の細胞のみを可視化して、その神経細胞の形態形成を観察した]により、Charcot-Marie-Tooth病2D型(CMT2D)に関連するヒトGARS遺伝子のショウジョウバエオルソログであるAats-gly(garsまたはグリシル-tRNAシンテターゼとも呼ばれる)の変異が次に述べる表現型を示すことを同定した。ショウジョウバエ神経におけるgarsの喪失は、軸索および樹状突起の末端樹状化の精密性および安定性に選択的に影響を及ぼす。[*選択的にというのは、この変異系統では神経の成長や軸索の形態、軸索投射などは正常であったことから]ヒトおよびショウジョウバエgars遺伝子はそれぞれ、細胞質およびミトコンドリアアイソフォームの両方をコードする。著者らは細胞質またはミトコンドリアのタンパク質翻訳を選択的に阻害する突然変異体を用いて、細胞質タンパク質翻訳が、発生中の樹状突起および軸索の両方の末端樹状化に必要であること、対照的にミトコンドリアタンパク質翻訳が、成虫の樹状突起形成の維持に選択的に必要であることを示した。[*選択的にというのは、ミトコンドリアの翻訳を止めると、軸索末端に比べて樹状突起形成に大きな影響を与えたため]著者らはまた、ヒトGARSも同等の機能を示し、CMT2Dを引き起こす変異が機能喪失特性を示すということも明らかにした。[*ショウジョウバエgars mutantの表現型がヒトGARSの過剰発現によりレスキューされたため]以上の結果は、軸索および樹状突起の発生および維持のための、タンパク質がどこで翻訳されるかの重要性[*細胞質とミトコンドリアという2つの異なる翻訳様式が、それぞれ別の状況で要求されるということ]を強調している。

 

ローカルトランスレーションは、細胞増殖だけではなく、神経で言えばaxonガイダンス、樹状突起の正確な突起形成、シナプス可塑性、長期記憶などに関与していると言われている。

今回の論文では、どこで翻訳されるのか?に焦点をあてて研究が行われた。樹状突起の発生は細胞質の翻訳だけではダメで、ミトコンドリアからの翻訳も大切ということである。同じタンパク質が細胞質からもミトコンドリアからも、それぞれ別のアイソフォームで翻訳されてくるというのは面白いし、それが神経発生に意味を持っているのが非常に興味深い。