ミトコンドリア融合とHippo経路の関連性 (Genetics 2016年6月17日オンライン掲載論文)

結論から言うと、ミトコンドリア融合を促進する遺伝子の機能低下が、Hippo経路の活性を低下させることを示した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、2016年6月17日のGeneticsにオンライン掲載の「Cross-Talk Between Mitochondrial Fusion and the Hippo Pathway in Controlling Cell Proliferation During Drosophila Development. (ショウジョウバエ発生においての細胞増殖を制御するミトコンドリア融合とHippo経路との相互作用。)」という論文で、中国 The Women’s Hospital, Zhejiang University School of Medicine の Dr. Wanzhong Geの仕事である。*1

  

abstract

Cell proliferation and tissue growth depend on the coordinated regulation of multiple signaling molecules and pathways during animal development. Previous studies have linked mitochondrial function and the Hippo signaling pathway in growth control. However, the underlying molecular mechanisms are not fully understood. Here we identify a Drosophila mitochondrial inner membrane protein ChChd3 as a novel regulator for tissue growth. Loss of ChChd3 leads to tissue undergrowth and cell proliferation defects. ChChd3 is required for mitochondrial fusion and removal of ChChd3 increases mitochondrial fragmentation. ChChd3 is another mitochondrial target of the Hippo pathway, although it is only partially required for Hippo pathway-mediated overgrowth. Interestingly, lack of ChChd3 leads to inactivation of Hippo activity under normal development, which is also dependent on the transcriptional coactivator Yorkie (Yki). Furthermore, loss of ChChd3 induces oxidative stress and activates the JNK pathway. In addition, depletion of other mitochondrial fusion components, Opa1 or Marf, inactivates the Hippo pathway as well. Taken together, we propose that there is a cross-talk between mitochondrial fusion and the Hippo pathway, which is essential in controlling cell proliferation and tissue homeostasis in Drosophila.

(私訳と勝手な注釈) 

細胞増殖および組織成長は、発生における複数のシグナル伝達分子および経路により制御される。先行研究において、ミトコンドリア機能とHippoシグナル伝達経路が成長制御に関連していることが示されている。しかしながら、その分子メカニズムは完全には理解されていない。この論文では、ショウジョウバエミトコンドリア内膜タンパク質であるChChd3を、組織増殖のためのレギュレーターとして新規に同定した。 *2ChChd3の喪失は、組織の成長低下および細胞増殖に障害をもたらした。 ChChd3はミトコンドリア融合に必要であり、ChChd3の除去はミトコンドリア断片化を増加させた。ChChd3はミトコンドリアにおけるHippo経路の新たな標的であるが、これはHippo経路が介する増殖に部分的にしか必要とされなかった。興味深いことに、ChChd3の欠如は、転写共活性化因子Yorkie(Yki)に依存する形で、通常の発生においてHippo活性の不活性化をもたらした。さらに、ChChd3の喪失は酸化的ストレスを誘導し、JNK経路を活性化した。その上、他のミトコンドリア融合促進因子であるOpa1またはMarfの喪失もまた、Hippo経路も不活性化した。以上より、ショウジョウバエの細胞増殖と組織恒常性を制御する上で必要不可欠な、ミトコンドリア融合とHippo経路との間に相互作用が存在することが提案された。

 

ミトコンドリア融合を促進する遺伝子の機能低下が、Hippo経路の活性を低下させる*3ことがわかった。この結果が、真にミトコンドリアの融合によるHippo経路の活性化を示していると仮に解釈するなら、ミトコンドリアの分裂因子はHippo経路を負に制御している可能性があるのだろうか。

 

個人的な感想としては、FLP/FRP システムと MARCM 法の理解のためには良い練習になる論文だと思った。ショウジョウバエの単一細胞のラベル技術をこれでもかというくらいに活用していた。

 

また、以前のこちらの記事で、

sudachi.hateblo.jp

神経筋接合部のシナプスブートンに必要不可欠なStripという遺伝子がHippo経路を負に制御しており、このStripがなくなると Hippo経路のwtsが活性化してしまい、その下流の遺伝子の作用で、シナプスブートン発生が乱れることが示された、という論文を紹介した。

ミトコンドリア融合因子をノックダウンしても、もちろん神経筋接合部の発生異常は起きる。考えられる仮説としては、Hippo経路を変に活性化させても不活化させても結局ダメ。

・活性化してしまった場合は以前の記事のような形でシナプスブートンの発生が乱れる。

・不活化させてしまった場合は細胞増殖、組織成長の機能低下によって神経発生のレベルが落ちてしまう。

といったところか。

*1:Cross-Talk Between Mitochondrial Fusion and the Hippo Pathway in Controlling Cell Proliferation During Drosophila Development | Genetics

*2:これはNIG-FRYリソースのRNAiライブラリーとey-gal4のかけ合わせによる、スモールスケールのスクリーニングによって同定。

*3:ミトコンドリア融合にはたらく遺伝子がHippo経路を正に制御している、とまでは言えないが