ミトコンドリア、マイトファジーと生合成のバランスはどう保つ? (Nature 2015年5月28日号掲載論文)

結論から言うと、マイトファジーミトコンドリアの生合成が協調してはたらくシグナル経路を明らかにした論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、2015年5月28日号Natureに掲載の「Coordination of mitophagy and mitochondrial biogenesis during ageing in C. elegans. (C. elegansにおける老化中のマイトファジーミトコンドリア生合成の制御。)」という論文で、ギリシャFoundation for Research & Technology – Hellas (FORTH) のDr. Nektarios Tavernarakisの仕事である。*1

 

論文の視覚的なイメージにはミトコンドリアのバランス良い分解と生合成が長寿の秘訣|2015年8月号|News & Hot Paper Digest|実験医学online:羊土社を見るとよいと思いますので、そちらも参考に。*2

 

 

abstract

Impaired mitochondrial maintenance in disparate cell types is a shared hallmark of many human pathologies and ageing. How mitochondrial biogenesis coordinates with the removal of damaged or superfluous mitochondria to maintain cellular homeostasis is not well understood. Here we show that mitophagy, a selective type of autophagy targeting mitochondria for degradation, interfaces with mitochondrial biogenesis to regulate mitochondrial content and longevity in Caenorhabditis elegans. We find that DCT-1 is a key mediator of mitophagy and longevity assurance under conditions of stress in C. elegans. Impairment of mitophagy compromises stress resistance and triggers mitochondrial retrograde signalling through the SKN-1 transcription factor that regulates both mitochondrial biogenesis genes and mitophagy by enhancing DCT-1 expression. Our findings reveal a homeostatic feedback loop that integrates metabolic signals to coordinate the biogenesis and turnover of mitochondria. Uncoupling of these two processes during ageing contributes to overproliferation of damaged mitochondria and decline of cellular function.

(私訳と勝手な注釈) 

ミトコンドリアの障害に対しての維持管理は、異なる種類の細胞においても、多くのヒトの疾患および老化の共通の特徴である。細胞内恒常性を維持するために、ミトコンドリアの生合成が過剰または損傷したミトコンドリアの除去とどのようにしてバランスしているのかは十分に理解されていない。この論文では、マイトファジー*3が、ミトコンドリアの生合成とミトコンドリアの内容物および寿命を調節するために相互作用することがC. elegansで示された。著者らは、DCT-1が線虫のストレス条件下でのマイトファジーおよび寿命を担保するための重要なメディエーターであることを見出した。 マイトファジーの機能障害は、ストレス耐性を損ない、DCT-1の発現レベルを上昇させることによってミトコンドリア生合成遺伝子およびマイトファジー遺伝子の両方を制御する、SKN-1転写因子を介して、ミトコンドリア逆行シグナル伝達を誘発する。これらの発見により、ミトコンドリアの生合成とターンオーバーを調整するために代謝シグナルを統合するホメオスタシスフィードバックループが明らかとなった。老化中のこれらの2つのプロセスのバランスが崩れると、損傷したミトコンドリアの過剰増殖および細胞機能の低下につながる。

 

このブログで何度も取り上げて来たマイトファジーだが、ふとした疑問として浮かび上がって来るのが、「マイトファジーミトコンドリア除去したら、ミトコンドリア足りなくならないの?」というものである。想像する答えは、

  1. ミトコンドリアの分裂によってミトコンドリアの数が増え、分裂したそれぞれのミトコンドリアが自己成長により大きくなり、もとの状態に戻る。
  2. ミトコンドリアという細胞小器官が、細胞内で新たに生合成されることで、もとの状態に戻る。

僕は今まで漠然と1だと思っていた。しかし、そもそもミトコンドリアが自己成長するとはありえるのだろうか。そのような記述のある文献を探しているが出会ったことはない。この論文では2が具体的に示されていた。*4健常なミトコンドリアの数を維持するために、どのようにしてマイトファジーミトコンドリア生合成のバランスが取られているのかというと、マイトファジーが欠損した際に、それを補う形でミトコンドリア生合成が亢進する経路が存在する。具体的にはマイトファジーが低下した際に、機能不全ミトコンドリアの蓄積による活性酸素種の増加に応答してSKN-1が活性化し、ミトコンドリア生合成とマイトファジー促進にはたらく、といった具合である。

生命にこのような素晴らしい機構があることには驚いた。しかし一方で、ミトコンドリアの障害が原因で病気になってしまうということは、ミトコンドリア病の患者さんにおいては、このような機構をも越えてしまうような異常が起きているということである。なるほど病気を治すのが難しいのにも納得してしまった。

 

*1:Coordination of mitophagy and mitochondrial biogenesis during ageing in C. elegans | Nature

*2:このurl先がとても良くまとまって書かれていました。今回の記事はいくつかのポイントでこのサイトを参考にして作成しています

*3:ミトコンドリア分解のためにミトコンドリアを標的とするタイプの選択的なオートファジー

*4:そもそもミトコンドリアが新たに生合成されるという事実を今まで強く意識したことがなかったので認識を改めたい。