MNF2の突然変異がCMT2Aになる原因はハプロ不全?ドミナントネガティブ? (EMBO Reports 2018年6月13日号掲載論文)

今回abstractを全訳するのは、2018年6月13日号のEMBO Reportsに掲載の「Mitofusin gain and loss of function drive pathogenesis in Drosophila models of CMT2A neuropathy.(ミトフシンの機能獲得および機能喪失がショウジョウバエモデルにおけるCMT2Aの原因となる。)」という論文。フランスIBDMマルセイユ*1のDr. Thomas Rivalが率いるラボからのお仕事です。

 

以下私訳と勝手な注釈。

Charcot-Marie-Tooth病型2A (CMT2A) は、ミトコンドリア融合促進因子*2mitofusin2 (MFN2) の優性対立遺伝子によって引き起こされる。これらの突然変異がmitofusinの活性および神経機能に与える影響を調査するために、CMT2A患者さんに見られる2つの最も頻繁な突然変異*3および類似のドメインに局在する2つの突然変異*4を神経系において発現するショウジョウバエモデルを作製した。*5すべてのアレルにおいて、神経筋接合部におけるミトコンドリア枯渇、酸化代謝*6の減少およびmtDNA突然変異の増加により引き起こる運動能力の低下が観察された。一方で、ミトコンドリアの形態および集まり方*7の変化は各アレルによって異なる。 GTPアーゼドメインの近くまたはその内部での突然変異は(R94Q、T105M)は、機能の喪失をもたらし、融合していないミトコンドリアの凝集を引き起こす。対照的に、ヘリックスバンドル1(R364W、L76P)内の突然変異は、ミトコンドリアの分裂促進因子DRP1の過剰発現によるミトコンドリアの変化および運動障害のレスキューによって示されるように、ミトコンドリア融合を増強した。結論として、ドミナントネガティブ*8およびドミナントアクティブ*9型の両方のmitofusinがCMT2A関連の欠陥を引き起こすことが明らかになり、過剰なミトコンドリアの融合が多数の患者におけるCMT2Aの原因になっていることが初めて示された。

 

要するに、CMT2Aの原因であるMFN2の突然変異だが、どの突然変異が起きているかによって、機能喪失によって病気になることもあれば、機能獲得の場合もあるということをハエモデルで提案しました、という論文。

 

確かに常染色体優性の遺伝様式を取るCMT2Aの場合、その原因遺伝子MFN2がハプロ不全なのか、ドミネガなのかは分子病態を考える上で重要であり、僕はハプロ不全ではないと考えてきた。*10けれども、どちらの場合もあるというのは興味深い。機能獲得と、機能喪失の変異を両方持った場合はどうなるのだろうか。致死になるのだろうか。

加えて、最後のMFN2Drp1のバランスを整えたらそれがレスキューになるっていうのは、最近紹介することの多くなってきたパターン。Drp1そのもののdominant negative突然変異を持つ新生児が筋緊張低下、小頭症、視神経萎縮、突然死などを呈することから、Drp1は生体内に必須のタンパク質であり、MFN2やOpa1の変異も病気になることが知られているが、それらの組み合わせでレスキューがかかるというのは、ヒトにおいてもあり得る話なのだろうか。謎は深まるばかりだ。

*1:Aix-Marseille University, CNRSにより運営されているInstitute

*2:接頭語のpro-は促進の意。

*3:具体的には、R94Q(←先行研究あり)、R364W(←先行研究なし)2つ。

*4:具体的には、T105MおよびL76P

*5:ヒトの変異タンパク質を過剰発現させたってことではなく、ショウジョウバエmarfとMFN2の配列類似性から、ヒトの突然変異に似たハエの突然変異を野生型のハエに過剰に発現させているという系。MFN2によりCMT2Aになる場合は遺伝学的優性な変異で十分なので、野生型のmarf過剰発現をコントロールにとれば、このような系の妥当性は担保される。

*6:酸化的リン酸化によるエネルギー産生

*7:organizationの適切な訳がわからないが、ミトコンドリアの秩序と言ったところか?

*8:変異によってコードされたタンパク質が、正常なものよりも優位に働くことで、表現型として、機能を失ったように見えること。

*9:そのタンパク質が本来のレベル以上(過剰)に本来の機能を発揮してしまうこと。いわゆる gain of toxic functionとは区別するための表現か。

*10:確かその根拠となるようなウエスタンがあった気がするんだけど、どの論文だったっけか。