ミトコンドリアの分布や形状さえ回復させれば、機能がおちてても、大丈夫?? ―No!(Cell Reports 2018年5月8日号掲載論文)

今回abstractを全訳するのは、2018年5月8日号のCell Reportsに掲載の「Manipulation of Mitochondria Dynamics Reveals Separate Roles for Form and Function in Mitochondria Distribution.(ミトコンドリアダイナミクスの人工的改変が明らかにした、ミトコンドリア分布における形態と機能の異なる役割。)」という論文。

イタリアIRCCS Eugenio MedeaのLaboratory of Molecular BiologyのAndrea Dagaさんが率いるラボからのお仕事。

 

以下私訳と勝手な注釈。

ミトコンドリアの形状は、mitofusin、Opa1およびDrp1による膜融合および分裂によって制御される一方で、ミトコンドリアの運動性は微小管のモーターに依存する。これらのプロセスが、ミトコンドリアの細胞分布を支配している。これが障害を受けることによる影響は、神経において特に顕著である。*1著者らは、融合/分裂の平衡の乱れが、ショウジョウバエの軸索におけるミトコンドリア分布にどのように影響するかを調査した。

MarfまたはOpa1のノックダウン(KD)は、進行性の遠位ミトコンドリアの欠損をもたらし、酸化的リン酸化および膜電位の明らかな異常をもたらした。Drp1のダウンレギュレーションは、神経特異的なMarfノックダウンに起因する致死およびエネルギー生合成の障害をレスキューしたが、軸索ミトコンドリア分布に関してはそれほど大きな回復がみられなかった。*2驚くべきことに、Drp1ノックダウンはOpa1ノックダウンに起因するミトコンドリアの断片化と軸索ミトコンドリアの異常な分布を完全にレスキューした。しかし、Drp1ノックダウンが生存能力またはミトコンドリアの機能を回復させることはなかった。*3

我々のデータは、適切なミトコンドリアの形態が、適切な軸索ミトコンドリア分布に重要であり、それがエネルギー生合成の効率とは無関係であることを示している。神経の健康状態は主にミトコンドリア機能に依存し、形状や分布には依存しない。

 

要するに、ミトコンドリアに障害を受けたハエの生存能力をレスキューするには、ミトコンドリアの輸送や形状を回復させるだけでは足りず、ミトコンドリアの機能も回復させることが大切だという論文。*4

 

ミトコンドリアの大きさについて言及はされていないっぽいか?ディスカッション読んでから追記します。

*1:神経という細胞には、細胞体と軸索とシナプスというように極性(方向性)があるため。

*2:つまり、適切なミトコンドリアの形態が、適切な軸索ミトコンドリア分布に重要であるということがここで示された。

*3:断片化とか分布の異常をレスキューしたところで、ミトコンドリアの機能は勝手に回復しないし、機能が回復しないと、ハエは生きれない。

*4:大切なのは、ミトコンドリアの分布だけを回復させることで全てがうまく行くはずがなかったということを示しているので、ミトコンドリアの分布が大事じゃない、どうでもいい、ということを示している訳ではないという点。ミトコンドリアの分布に関してそれほど大きな回復が見られずにハエの生存能力がレスキューされているじゃないか。と思うかもしれないが、もとの状態にもどっていないだけで、全く変化がない訳ではない。それに、Drp1 KDでレスキューされるMarf KDの致死性やATP生産性もある程度しか回復していない。