はてなブログ:記事が消えたときの対処法

はてなブログで記事が消えてしまうことってありませんか?

 

僕は今までに2回なりました。

www.tanegashimapi.com

この人と同じ状況でした。ゴミ箱にもないのです。

 

過去にアップしたはずの記事が、なぜか消えてしまっていて悲しい気持ちです。

でも確かにアップした記憶はあるんですよねー。

 

はてなブログくそか?ブログやめるぞ?なんだかだまされた気持ちです。

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原因と対策

僕の場合の原因は何だったかというと、

「コピーして新しい記事を書く」

 

を選択して記事をアップしたのに、

 

数日後に上書きになってしまうことがある。

 

ということが原因だったみたいです。(なぜこんな現象が起きるのは不明)

 

対処法としては上書きされてしまった記事を編集履歴のからさかのぼって復元します。

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記事の管理を選択

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消えた記事を思い出しながら、現在コピー元を上書きしてしまっている記事を選択

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このように編集履歴にたどりつきます。

以上の画像の通りの手順をふんで編集履歴にたどりつけば、最後の画像のところに、目的の上書きされてしまった記事が見つかると思うので復元してみて下さい。

神経発生における細胞質翻訳とミトコンドリア翻訳の異なる影響 (nature neuroscience 2007年5月27日オンライン掲載論文)

結論から言うと、2CMTの原因遺伝子GARSが軸索および細胞体末端の突起分岐形成に必要であることを明らかにし、その細胞質における翻訳は細胞体と軸索の両方に必要で、ミトコンドリアにおける翻訳は細胞体の突起分岐形成に必要であるということを示し、神経発生にはタンパク質がどこで翻訳されるかが重要であることを提案した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、2007年5月27日nature neuroscienceにオンライン掲載の「Cytoplasmic and mitochondrial protein translation in axonal and dendritic terminal arborization. (軸索および樹状細胞末端の分岐における、細胞質およびミトコンドリアにおけるタンパク質の翻訳。)」という論文で、米国 Stanford University の Dr. Liqun Luoの仕事である。*1

 

Abstract

We identified a mutation in Aats-gly (also known as gars or glycyl-tRNA synthetase), the Drosophila melanogaster ortholog of the human GARS gene that is associated with Charcot-Marie-Tooth neuropathy type 2D (CMT2D), from a mosaic genetic screen. Loss of gars in Drosophila neurons preferentially affects the elaboration and stability of terminal arborization of axons and dendrites. The human and Drosophila genes each encode both a cytoplasmic and a mitochondrial isoform. Using additional mutants that selectively disrupt cytoplasmic or mitochondrial protein translation, we found that cytoplasmic protein translation is required for terminal arborization of both dendrites and axons during development. In contrast, disruption of mitochondrial protein translation preferentially affects the maintenance of dendritic arborization in adults. We also provide evidence that human GARS shows equivalent functions in Drosophila, and that CMT2D causal mutations show loss-of-function properties. Our study highlights different demands of protein translation for the development and maintenance of axons and dendrites.

 

私訳と勝手な注釈。著者らはモザイク遺伝子スクリーニング[*MARCM法により、突然変異が起きている単一の細胞のみを可視化して、その神経細胞の形態形成を観察した]により、Charcot-Marie-Tooth病2D型(CMT2D)に関連するヒトGARS遺伝子のショウジョウバエオルソログであるAats-gly(garsまたはグリシル-tRNAシンテターゼとも呼ばれる)の変異が次に述べる表現型を示すことを同定した。ショウジョウバエ神経におけるgarsの喪失は、軸索および樹状突起の末端樹状化の精密性および安定性に選択的に影響を及ぼす。[*選択的にというのは、この変異系統では神経の成長や軸索の形態、軸索投射などは正常であったことから]ヒトおよびショウジョウバエgars遺伝子はそれぞれ、細胞質およびミトコンドリアアイソフォームの両方をコードする。著者らは細胞質またはミトコンドリアのタンパク質翻訳を選択的に阻害する突然変異体を用いて、細胞質タンパク質翻訳が、発生中の樹状突起および軸索の両方の末端樹状化に必要であること、対照的にミトコンドリアタンパク質翻訳が、成虫の樹状突起形成の維持に選択的に必要であることを示した。[*選択的にというのは、ミトコンドリアの翻訳を止めると、軸索末端に比べて樹状突起形成に大きな影響を与えたため]著者らはまた、ヒトGARSも同等の機能を示し、CMT2Dを引き起こす変異が機能喪失特性を示すということも明らかにした。[*ショウジョウバエgars mutantの表現型がヒトGARSの過剰発現によりレスキューされたため]以上の結果は、軸索および樹状突起の発生および維持のための、タンパク質がどこで翻訳されるかの重要性[*細胞質とミトコンドリアという2つの異なる翻訳様式が、それぞれ別の状況で要求されるということ]を強調している。

 

ローカルトランスレーションは、細胞増殖だけではなく、神経で言えばaxonガイダンス、樹状突起の正確な突起形成、シナプス可塑性、長期記憶などに関与していると言われている。

今回の論文では、どこで翻訳されるのか?に焦点をあてて研究が行われた。樹状突起の発生は細胞質の翻訳だけではダメで、ミトコンドリアからの翻訳も大切ということである。同じタンパク質が細胞質からもミトコンドリアからも、それぞれ別のアイソフォームで翻訳されてくるというのは面白いし、それが神経発生に意味を持っているのが非常に興味深い。

ミトコンドリア膜の生合成を促進する脂質の発見 (Journal of Cell Biology 2015年9月7日号掲載論文)

結論から言うと、ミトコンドリア膜タンパク質の生合成が促進する脂質を初めて示した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、 2015年9月7日号のJournal of Cell Biologyに掲載された「The fusogenic lipid phosphatidic acid promotes the biogenesis of mitochondrial outer membrane protein Ugo1. (融合誘導性脂質ホスファチジン酸は、ミトコンドリア外膜タンパク質Ugo1の生合成を促進する。)」という論文で、ドイツ Institut für Biochemie und Molekularbiologie, Center of Biochemistry and Molecular Cell Research (ZBMZ) の Dr. Chris Meisingerの仕事である。*1

 

Abstract

Import and assembly of mitochondrial proteins depend on a complex interplay of proteinaceous translocation machineries. The role of lipids in this process has been studied only marginally and so far no direct role for a specific lipid in mitochondrial protein biogenesis has been shown. Here we analyzed a potential role of phosphatidic acid (PA) in biogenesis of mitochondrial proteins in Saccharomyces cerevisiae. In vivo remodeling of the mitochondrial lipid composition by lithocholic acid treatment or by ablation of the lipid transport protein Ups1, both leading to an increase of mitochondrial PA levels, specifically stimulated the biogenesis of the outer membrane protein Ugo1, a component of the mitochondrial fusion machinery. We reconstituted the import and assembly pathway of Ugo1 in protein-free liposomes, mimicking the outer membrane phospholipid composition, and found a direct dependency of Ugo1 biogenesis on PA. Thus, PA represents the first lipid that is directly involved in the biogenesis pathway of a mitochondrial membrane protein.

 

(私訳と勝手な注釈) ミトコンドリアタンパク質の取り込みと組み立ては、タンパク質トランスロケーション機序における複雑な相互作用に依存する。このプロセスにおける脂質の役割はわずかにしか研究されておらず、ミトコンドリアタンパク質の生合成における特定の脂質の直接的な役割は示されていない。この論文では、出芽酵母におけるミトコンドリアタンパク質の生合成におけるホスファチジン酸(PA[*最も簡単なリン脂質]の役割について分析した。リトコール酸処理[*リトコール酸は脂質を可溶性にして吸収を高める界面活性剤の役割をする胆汁酸の一種。この処理によりミトコンドリア膜のグリセロリン脂質の構成成分が変化する]または脂質輸送タンパク質Ups1を切除することによるミトコンドリア脂質構成成分のin vivoにおける再構成は、ミトコンドリアにおけるPAレベルを上昇させ、ミトコンドリア融合に関わる外膜タンパク質Ugo1の生合成を特異的に促進した。著者らは、タンパク質を含まないリポソーム[*細胞膜と同じ材料で作られた小さな気泡(小胞)のこと。 リポソームを薬物で満たすと、組織に薬を届けるために使用することも可能。 膜はリン脂質で作られていることが多い]中のUgo1の取り込みおよび組み立て経路を再構成することを通して、外膜リン脂質の構成成分を再現し、Ugo1生合成のPAに対する直接依存性を見出した。以上の結果より、ミトコンドリア膜タンパク質の生合成経路に直接関与する脂質が初めて示された。

 

まとめると、PAレベルの上昇に依存して、Ugo1タンパク質が生合成されることを示したということである。実はUgo1にはヒトなどのホモログとしてSLC25A46が知られており、このブログでも何度か紹介した。

sudachi.hateblo.jp

この記事のとおりSLC25A46ERからミトコンドリアに脂質を輸送するが、Ugo1のように脂質のレベルにフィードバックを受けて発現が上がるのかもしれない。

脂質というのは知らない単語が多くて初学者には辛いが、このような論文を読むことで少しずつ理解して行きたい。

ParkinによるMFN2のユビキチン化の抑制により腫瘍を抑える (Cancer Letters 2018年7月5日オンライン掲載論文)

結論から言うと、メラノーマに対して、MFN2は腫瘍の成長・転移を抑える方向にはたらいており、MFN2に直接結合してユビキチン化を行うParkinKOすることにより、腫瘍を抑えることができることを示した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、 2018年7月5日Cancer Lettersにオンライン掲載の「Deficiency of parkin suppresses melanoma tumor development and metastasis through inhibition of MFN2 ubiquitination. (パーキンの欠損は、MFN2ユビキチン化の阻害につながり、メラノーマ腫瘍の発生および転移を抑制する。)」という論文で、韓国 Chungbuk National University の Dr. Jin Tae Hongの仕事である。*1

 

Abstract

Parkin, a critical gene of Parkinson's disease, is involved in the development of numerous cancers. However, the effect of parkin deficiency on melanoma growth and metastasis has not been reported. We showed that the tumor size and number of surface lung metastases, and expression of tumor growth and metastasis marker proteins were significantly lower in parkin-KO mice than those observed in non-transgenic controls. In an in vitro study, we also showed that parkin siRNA inhibited cell growth and migration of B16F10 and SK-Mel-28cells. Parkin-specific ubiquitination of mitofusin-2 (MFN2) was decreased in tumors and metastasized lung tissues of parkin-KO mice. Moreover, we showed that parkin directly binds and ubiquitinates MFN2. Knockdown of MFN2 decreased the expression of Bax and apoptotic cell death, but increased that of Bcl2 and apoptotic cancer cell death. However, these effects were reversed by knockdown of parkin. Conversely, inhibitory effects on melanoma growth and migration of parkin siRNA were reversed by MFN2 siRNA. These data indicate that melanoma development was inhibited in parkin-KO mice through maintaining of MFN2 level by inhibition of ubiquitinating ability of parkin.

 

私訳と勝手な注釈。パーキンソン病にクリティカルな遺伝子であるParkinは、多数の癌の発生にも関与している。しかし、パーキン欠乏症がメラノーマ[*ほくろのがん]の成長および転移に与える影響は報告されていない。著者らは、Parkin-KOマウスにおいて、腫瘍の大きさおよび肺表面転移の数、および腫瘍増殖、転移マーカータンパク質の発現が、非トランスジェニックのコントロールと比べて有意に低かったことを示した。in vitroの実験では、Parkin siRNAがB16F10およびSK-Mel-28細胞の細胞増殖および遊走を阻害することも示した。[*Paikin-KO, KDにより腫瘍が弱くなる]Parkin-KOマウスの腫瘍および転移がみられる肺組織では、Parikinによりユビキチン化されたmitofusin-2(MFN2)が減少していた。さらに著者らは、ParkinがMFN2に直接的に結合しユビキチン化することも示した。 MFN2のノックダウンは、Baxの発現およびアポトーシスを減少させたが、Bcl2およびアポトーシス性癌細胞死の発現を増加させた。しかし、Parkinのノックダウンはこれらと逆の効果を示した。[*MFN2-KDアポトーシス減少、がん細胞死は亢進。Parkinでは逆の効果]対照的に、MFN2 siRNAは、メラノーマ成長および移動に対するParkin siRNAの阻害効果と逆の効果を示した。[*MFN2-KDでメラノーマ成長して、転移促進。Parkinでは逆の効果]これらのデータは、Parkin-KOマウスにおいて、Parkinのユビキチン化能力の阻害によってMFN2レベルを維持することによってメラノーマの発達が阻害されたことを示している。

 

昨日の記事でMfn2とがんに関する論文を読んだ。

 

sudachi.hateblo.jp

それに続いてもう1本ということでこちらの論文。
少しややこしい。
ParkinKOすることによって、MFN2がユビキチン化されなくなって分解されなくなるので、腫瘍の成長・転移が抑えられるということ。

一方で、MFNKDすると、正常細胞のアポトーシスが減少して腫瘍の細胞死は増加するので、強い腫瘍が残るけど、それを殺す機構ははたらくということか。

ちなみに、先行研究でわかっていることは、MFN2はがん抑制遺伝子であり、Parkin dependentの形で、3つのユビキチン化モチーフによって制御されているそうな。

 

以前の記事で、ParkinによるMFN2のユビキチン化がER-ミトコンドリアの相互作用に与える影響についての論文を紹介したのでそちらも参考に。

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膵臓がん細胞におけるMfn2のインパクト (International Journal of Oncology 2018年4月26日オンライン掲載論文)

結論から言うと、膵臓がんの治療法として、miR-125aを導入することによりがん細胞で異常に発現しているMfn2の発現量を下げ、アポトーシスを亢進、転移を抑制させることを提案した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、 2018年9月3日International Journal of Oncologyにオンライン掲載の「miR-125a induces apoptosis, metabolism disorder and migrationimpairment in pancreatic cancer cells by targeting Mfn2-related mitochondrial fission. (miR-125aは、Mfn2に関連したミトコンドリア分裂を標的とすることによって、膵臓がん細胞においてアポトーシス代謝障害および移動障害を誘導する。)」という論文で、中国 Chinese PLA General Hospital, Beijing の Dr. Rong Liuの仕事である。*1

 

Abstract

Mitochondrial fission is important for the development and progression of pancreatic cancer (PC). However, little is known regarding its role in pancreatic cancer apoptosis, metabolism and migration. In the current study, the mechanism by which mitochondrial fission modifies the biological characteristics of PC was explored. MicroRNA‑125a (miR‑125a) had the ability to inhibit mitochondrial fission and contributed to cellular survival. Suppressed mitochondrial fission led to a reduction in mitochondrial debris, preserved the mitochondrial membrane potential, inhibited mitochondrial permeability transition pore opening, ablated cytochrome c leakage into the cytoplasm and reduced the pro‑apoptotic protein contents, finally blocking mitochondria related apoptosis pathways. Furthermore, defective mitochondrial fission induced by miR‑125a enhanced mitochondria‑dependent energy metabolism by promoting activity of electron transport chain complexes. Furthermore, suppressed mitochondrial fission also contributed to PANC‑1 cell migration by preserving the F‑actin balance. Furthermore, mitofusin 2 (Mfn2), the key defender of mitochondrial fission, is involved in inhibition of miR125a‑mediated mitochondrial fission. Low contents of miR‑125a upregulated Mfn2 transcription and expression, leading to inactivation of mitochondrial fission. Ultimately, the current study determined that miR‑125a and Mfn2 are regulated by hypoxia‑inducible factor 1 (HIF1). Knockdown of HIF1 reversed miR‑125a expression, and therefore, inhibited Mfn2 expression, leading to activation of mitochondrial fission. Collectively, the present study demonstrated mitochondrial fission as a tumor suppression process that is regulated by the HIF/miR‑125a/Mfn2 pathways, acting to restrict PANC‑1 cell survival, energy metabolism and migration, with potential implications for novel approaches for PC therapy.

 

私訳と勝手な注釈。ミトコンドリア分裂は、膵臓癌(PC)の発生および進行にとって重要である。しかしながら、膵臓癌アポトーシス代謝および転移における、ミトコンドリア分裂の役割に関してはほとんど知られていない。この研究では、ミトコンドリア分裂がPCの生物学的特性を改変するメカニズムについての調査が行われた。 MicroRNA-125a(miR-125a)は、ミトコンドリア分裂を阻害する能力を有し、細胞生存に寄与した。ミトコンドリア分裂の抑制は、ミトコンドリアの断片化を抑制し、ミトコンドリア膜電位を保存し、ミトコンドリア透過性移行孔開口の抑制によってシトクロムcの細胞質への漏出の抑制し、アポトーシス促進タンパク質量の減少をもたらし、最終的にミトコンドリア関連アポトーシス経路を阻止した。さらに、miR-125aによって誘発されたミトコンドリア分裂の欠落は、電子輸送鎖複合体の活性を促進することによってミトコンドリア依存性エネルギー代謝を増強した。さらに、抑制されたミトコンドリア分裂は、F-アクチン平衡を維持することによってPANC-1細胞[*膵臓がん細胞]の移動にも寄与した。さらに、ミトコンドリア分裂の防御因子として鍵となるミトフシン2(Mfn2)は、miR125a媒介ミトコンドリア分裂の阻害に関与していることが明らかとなった。 miR-125aのレベルが通常より低くなることで、Mfn2の転写および発現がアップレギュレートし、ミトコンドリア分裂の不活性化に至る。最終的に著者らは、miR-125aおよびMfn2が低酸素誘導因子1(HIF1)によって調節されることを明らかにした。 HIF1のノックダウンはmiR-125a発現を抑制し、したがってMfn2発現を阻害し、ミトコンドリア分裂の活性化を導く。まとめると、本研究は、PANC-1細胞の生存、エネルギー代謝および遊走を制限するように作用するHIF / miR-125a / Mfn2経路によって調節される腫瘍抑制プロセスとしてミトコンドリア分裂を提案し、これが膵臓がん療法の新規アプローチとなり得るだろう。

 

 

がん細胞が異常に増殖できるように、miR-125aというmiRNAのレベルを下げ、Mfn2の発現を上げることでミトコンドリア周りを活性化させているということ。今回もMfn2が生体内にとって大切なはたらきをしていることがわかった。

 

Mfn2が大切という以前の記事はこちら。

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ALSに対するL-アルギニン治療 (BBRC 2009年7月10日号掲載論文)

結論から言うと、L-アルギニンを加えることによって、ALSモデルマウスとvitroの運動神経における神経変性がレスキューされることを示した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、 2009年7月10日号のBiochemical and Biophysical Research Communicationsに掲載された「Motor neuronal protection by L-arginine prolongs survival of mutant SOD 1 (G 93 A) ALS mice. (L-アルギニンによる運動ニューロン保護は、変異体SOD1(G93A)ALSマウスの寿命を延長する。)」という論文で、米国 Boston University School of Medicine の Dr. JungheeLeeの仕事である。*1

 

Abstract

Amyotrophic lateral sclerosis (ALS) is a fatal neurodegenerative disorder characterized by progressive paralysis due to motor neuron degeneration. Despite the fact that many different therapeutic strategies have been applied to prevent disease progression, no cure or effective therapy is currently available for ALS. We found that L-arginine protects cultured motor neurons from excitotoxic injury. We also found that L-arginine supplementation both prior to and after the onset of motor neuron degeneration in mtSOD1 (G93A) transgenic ALS mice significantly slowed the progression of neuropathology in lumbar spinal cord, delayed onset of motor dysfunction, and prolonged life span. Moreover, L-arginine treatment was associated with preservation of arginase I activity and neuroprotective polyamines in spinal cord motor neurons. Our findings show that L-arginine has potent in vitro and in vivo neuroprotective properties and may be a candidate for therapeutic trials in ALS.

 

(私訳と勝手な注釈) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経変性による進行性麻痺を特徴とする致命的な神経変性疾患である。 疾病の進行を防ぐために多くの異なる治療戦略が試みられてきたが、現在までALSの治癒または有効な治療は発見されていない。著者らは、運動神経の培養細胞において、L-アルギニンが興奮毒性による傷害から保護することを見出した。 また、SOD1突然変異体(G93A)トランスジェニックALSマウスにおける運動ニューロン変性に対して発症前後におけるL-アルギニン補充が、腰椎における神経の病理学的進行を遅らせ、運動機能障害の発症を遅延させ、寿命を延ばすことも見出した。 さらに、L-アルギニン処理は、脊髄運動ニューロンにおけるアルギナーゼI[*オルニチン回路において、アルギニンと水からオルニチンと尿素を生成する酵素]活性および神経保護性ポリアミ[*第一級アミノ基が3つ以上結合した直鎖脂肪族炭化水素の総称]の維持に関連していた。以上の結果は、L-アルギニンがin vitroおよびin vivoで強力な神経保護特性を有し、ALSの治験の候補になることを示す。

 

 

先行研究において、ALSの患者さんの血漿でアルギニンの濃度が不足していることが報告されていた。ただし、それだけでは単にALSによる栄養失調の症状の副次的な効果を見ているだけなのかもしれない。ALSの運動神経におけるアルギニンの効果は不明。ということで始まった研究。アルギニンを加えて神経変性を治そうという試みは他の神経変性疾患にも応用できそうだ。

SLC25A46の分子病態には輸送体としての機能だけでなく他タンパク質との相互作用を考えることが重要 (Human Mutation 2018年9月3日オンライン掲載論文)

結論から言うと、神経変性疾患の原因遺伝子SLC25A46ミトコンドリアトランスポーターファミリーに属するが、トランスポーターの機能とは別に、クリステ形成に関与するタンパク質と複合体を形成することが、疾患の分子病態を考える上で重要であることを示唆した論文。

 

ということで今回abstractを全訳するのは、 2018年9月3日Human Mutationにオンライン掲載の「Insights into the genotype-phenotype correlation and molecular function of SLC25A46. (SLC25A46の遺伝子型 - 表現型の相関と分子機能についての洞察。)」という論文で、米国 University of Miami の Dr. Stephan Zuchnerの仕事である。*1

 

Abstract

Recessive SLC25A46 mutations cause a spectrum of neurodegenerative disorders with optic atrophy as a core feature. We report a patient with optic atrophy, peripheral neuropathy, ataxia, but not cerebellar atrophy, who is on the mildest end of the phenotypic spectrum. By studying seven different non-truncating mutations, we found that the stability of the SLC25A46 protein inversely correlates with the severity of the disease and the patient's variant does not markedly destabilize the protein. SLC25A46 belongs to the mitochondrial transporter family, but it is not known to have transport function. Apart from this possible function, SLC25A46 forms molecular complexes with proteins involved in mitochondrial dynamics and cristae remodeling. We demonstrate that the patient's mutation directly affects the SLC25A46 interaction with MIC60. Furthermore, we mapped all of the reported substitutions in the protein onto a 3D model and found that half of them fall outside of the signature carrier motifs associated with transport function. We thus suggest that there are two distinct molecular mechanisms in SLC25A46-associated pathogenesis, one that destabilizes the protein while the other alters the molecular interactions of the protein. These results have the potential to inform clinical prognosis of such patients and indicate a pathway to drug target development.

 

(私訳と勝手な注釈) 
SLC25A46突然変異は、常染色体劣性遺伝の様式で、神経変性障害のスペクトラム[*単一ではなく様々な障害という意味でスペクトラムという単語が用いられている]を引き起こし、視神経萎縮を臨床表現型の特徴とする。著者らは、視神経萎縮、末梢神経障害、運動失調を有するが、小脳萎縮を示さない患者を報告した。これは患者が示す表現型のスペクトラムにおいて最も軽度な状態である。 7つの異なるミスセンス突然変異の解析により、SLC25A46タンパク質の安定性は疾患の重篤度と負の相関を示し、患者の変異体がタンパク質を著しく不安定化させることはないことが明らかとなった。 SLC25A46は、ミトコンドリアトランスポーターファミリーに属するが、輸送機能を有することは知られていない。トランスポーターという機能とは別に、SLC25A46はミトコンドリアダイナミクスおよびクリステリモデリングに関与するタンパク質と分子複合体を形成する。著者らは、患者の突然変異がMIC60[*MICOS複合体(クリステを形成するのに必要)の構成タンパク質]とSLC25A46の相互作用に直接的に影響を及ぼすことを示す。さらに著者らは、タンパク質中のアミノ酸配列の中で、報告された全ての置換を3Dモデル上にマッピングし、それらの半分が輸送機能に関連するシグネチャーキャリアモチーフ[*輸送体としての目印となる配列]の外にあることを見出した。従って、これらの結果はSLC25A46が関与する疾患の原因には2つの異なる分子機構があることを示唆している。1つ目の仮説はタンパク質が不安定化されてしまうこと、もう1つはタンパク質の分子相互作用が変化することによるもの。これらの結果が患者に対する臨床予後診断や、薬剤標的開発への経路探索に貢献する可能性がある。

 

以前のこちらの記事で紹介したSLC25A46が再び登場。

sudachi.hateblo.jp

SLC25A46がミトコンドリアダイナミクスやクリステ形成に必須のタンパク質と相互作用しているのはこちらの先行研究でも示されていたが、実際に患者さんに起きている突然変異のレベルでみても、トランスポーターとしてのはたらきというよりはむしろ、ミトコンドリア関連タンパク質との相互作用が重要だということが示唆された。